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本と映画と政治の批評
by thessalonike

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北朝鮮問題考(1) - 日朝実務者協議をめぐる政治
北朝鮮問題考(1) - 日朝実務者協議をめぐる政治_b0018539_16194880.jpg結局のところ今回の日朝実務者協議では特に何の進展もなく、八人死亡ニ人不明の線が覆る事はなかった。報道では北朝鮮に対する経済制裁の発動が取り沙汰されている。おそらく週末の各テレビ局の政治番組の中で緊急アンケートの結果が報告され、北朝鮮への経済制裁に賛成か反対かの世論調査の数字が公表されるだろう。新聞では読売が経済制裁に賛成、朝日が慎重な姿勢の社説を出している。アンケートの結果も局や番組で分かれるかも知れない。政府は現在のところ経済制裁の素振りは全く見せず、代わりに自民党のタカ派議員が声高に強硬論を吠えている。巧妙な分業政治。議員は国内の保守層の票を失わないように騒ぎ、政府は六カ国協議の枠組を壊さないように外交に配慮して政策を運ぶ。ここで(北朝鮮との事前了解なしに)本格的な経済制裁を発動すれば、半島の安全保障を担う六カ国協議体制は崩壊の危機に瀕する。



北朝鮮問題考(1) - 日朝実務者協議をめぐる政治_b0018539_1620658.jpgこの実務者協議の政治を俯瞰して内実を読むならば、まず日本側は基本的に二年前の日朝平壌宣言を踏み外すつもりはない。それはこの国の長期外交を主管する外務省の基本方針であり、そして歴史的勲功を狙う小泉政権の政権方針でもある。任期中(二年以内)に必ず日朝平和友好条約を締結して歴史に名を残そうとするだろう。条約締結は同時に総額一兆円ともそれ以上とも言われる巨額の政府援助の提供であり、その中身は、道路、港湾、電力設備等々の産業生活インフラの建設投資が中心になる。それは従来から言われているとおり、日本のゼネコンにとって夢のような超大型の土木建設需要の発生であり、国内の公共事業が激減して経営危機に陥っている彼らにとって、まさに神風となる平成の朝鮮特需の到来である。早く日朝条約を結んでくれというのが財界の切なる希望であり、経済制裁を連呼しているタカ派議員ですら裏では日朝利権の甘い汁に虎視眈々としている。

北朝鮮問題考(1) - 日朝実務者協議をめぐる政治_b0018539_16201986.jpg小泉首相は実務者協議を今後も続ける意向を淡々と表明した。今回のプアな結果について落胆した様子は微塵も見せなかった。巷間言われている経済制裁には何段階もフェーズがある。予想するに、国内世論の動向を窺いながら、北朝鮮との間で折り合いのつく線を水面下で交渉するつもりだろうし、その秘密交渉の役割は外務省の藪中三十二ではなく、首相補佐官の山崎拓が(平沢勝栄と共に)行うに違いない。山崎拓も平沢勝栄も、それから小泉首相も、さらに官邸と外務省のトップレベルは、拉致被害者八人が生存している確証を得ているはずだ。少なくとも真実を知っている。これはまさに絵に描いたような典型的な人質であり、取引の交換材料なのであり、つまり身代金(日朝平和友好条約)との交換で生存が確認され日本へ送還される。それなしに日本へ返すわけには行かないというのが北朝鮮側の論理だろう。

北朝鮮問題考(1) - 日朝実務者協議をめぐる政治_b0018539_1620366.jpg北朝鮮の側から見れば、今後は絶対に人質(生存拉致被害者)を小出しにはしない。金(一兆円)が出ない限り日本には引き渡さない。生存の心証を高めるメッセージを発信するのみで、建前はあくまで「全員死亡」を貫徹する。二年前の五人帰国は北朝鮮にとっては大いなる誤算で、日本の世論があそこまで大きく右傾化して反北朝鮮一色に染まるとは予想だにしていなかったに違いない。人質を返したつもりが、逆に五人の身柄を日本の右翼に押さえられて政治的に利用された。人質の小出しは北朝鮮にとって不利な材料にしかならない事を学習したわけであり、彼らの行程表は小泉政権任期切れ寸前に日本から駆け込みで締結を懇請してくる日朝平和友好条約(一兆円)を見据えて動かない。それまでの二年間はのらりくらりと適当に言を左右して逃げ切るだけで、大事な人質の身に異変が起きないように万全に保護をする。

北朝鮮問題考(1) - 日朝実務者協議をめぐる政治_b0018539_16204725.jpg思うに、日本が単独で経済制裁を発動しても北朝鮮の体制が崩壊する結果には繋がらない。餓死者が増えるだけであり、民衆の困窮がさらに悲惨を極めるだけだ。経済の窮迫が政権の異動なり政策の転換に繋がるのであれば、これほど餓死者が出て人口が減る前にそうなっていただろう。北朝鮮には野党もなく反体制の政治勢力が(地上にも地下にも)ない。体制変革の意志や気力が人民から失せていて、あとは危険を冒して国外へ逃げるか、このまま国内で死ぬかの選択以外に個人の生き方がなくなっている。希望は独裁者が死ぬことだけであり、時間だけが問題を解決してくれる。日本の経済制裁は、完全な送金停止と資産締結までやれば効果は少なくないだろうが、日本が支えなくても中国が北朝鮮を支えられる。体制崩壊に伴う戦争発生のリスクは韓国も中国も望まぬところであり、平和のための代償は払う用意があるだろう。
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by thessalonike | 2004-11-18 23:30 | 北朝鮮問題考 (10)   INDEX  
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