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本と映画と政治の批評
by thessalonike

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内政干渉論の荒唐無稽 - 86年の『中曽根書簡』と後藤田談話
内政干渉論の荒唐無稽 - 86年の『中曽根書簡』と後藤田談話_b0018539_1128790.jpg靖国参拝に対する中国の批判が内政干渉であるという主張は明らかに誤った暴論である。小泉首相の口からこのような非常識な強弁が飛び出して、それがマスコミや世論の批判を受けないまま放置されている現状こそ、まさに現在の日本の異常で倒錯した政治状況を示している。この問題は重大な国内問題であると同時に今日の日本における最大の外交問題であり、また世界の耳目を欹てている国際政治のホットイシューである。靖国問題への外国からの批判を日本の首相が内政干渉の論理で反論したことは、私の記憶ではこれまで一度もない。歴代政権において靖国問題は常に大きな外交問題であり続け、時の政府は事態の収拾に追われ続けてきた筈だ。靖国問題は郵政民営化とか年金問題のような内政問題とは根本的に異なる国際政治問題であって、これを内政問題だと言い逃れるのは詭弁であり、個人の内面の自由の問題だと言い抜けるのは欺瞞である。靖国参拝は憲法違反であると同時に国際法違反行為なのだ。



内政干渉論の荒唐無稽 - 86年の『中曽根書簡』と後藤田談話_b0018539_1128282.jpg靖国問題が外交問題である事実を最も端的に証明する根拠として、86年8月14日に発表した後藤田官房長官の談話がある。これは前年の85年8月15日に当時の中曽根首相が公式参拝をして、韓国や中国から猛烈な抗議が上がったのに対して政府として応えたものだが、日本政府自らが靖国神社のA級戦犯合祀についてそれが外交上の問題であることを正式に認めている。

靖国神社がA級戦犯を合祀していること等もあって、昨年実施した公式参拝は近隣諸国の国民の間に批判を生み、過去の戦争への反省と平和友好への決意に対する誤解と不信さえ生まれるおそれがある」 「我が国が平和国家として国際社会の平和と繁栄のためにいよいよ重い責務を担うべき立場にあることを考えれば、国際関係を重視し、近隣諸国の国民感情にも適切に配慮しなければならない」 「政府としては、これら諸般の事情を総合的に考慮し、慎重かつ自主的に検討、公式参拝は差し控えることとした」 (86年8月14日)

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戦後40年たったとはいえ不幸な歴史の傷痕はいまなおとりわけアジア近隣諸国民の心中深く残されており、侵略戦争の責任を持つ特定の指導者が祀られている靖国神社に公式参拝することにより、貴国をはじめとするアジア近隣諸国の国民感情を結果的に傷つけることは、避けなければならないと考え、今年は靖国神社の公式参拝を行わないという高度の政治決断を致しました。 (86年8月15日)

上は、このとき中曽根首相が胡耀邦総書記宛宛てに出した手紙、いわゆる『中曽根書簡』の一節だが、この中でも明確に靖国が重大な外交問題である認識が述べられている。85年の中曽根首相の公式参拝の後、歴代の総理大臣の靖国参拝は13年間途絶え、96年7月に日本遺族会会長であった橋本首相がいわゆる私的参拝をするが、これも中国政府からの遺憾表明を受けて翌年以降の参拝は見送っている。たとえ「私的参拝」のエクスキューズで取り繕ったとしても、近隣諸国からの反発と抗議は必至であり、国際関係を悪化させる結果に導くから、歴代首相の靖国参拝は見送られてきたのである。

内政干渉論の荒唐無稽 - 86年の『中曽根書簡』と後藤田談話_b0018539_11285053.jpg中曽根書簡に書かれている中身と今回の小泉首相の内政干渉論との間には、あまりにも大きな隔絶と飛躍があり、靖国神社とA級戦犯に対する根本的な意味づけの相違と転換がある。中曽根書簡と後藤田談話は、A級戦犯を祀る靖国神社への参拝が「近隣諸国の国民感情を傷つける」行為であることを認めているが、小泉首相の国会答弁や記者会見ではその認識が全くなく、逆に「それ(A級戦犯)はもう終わったことでしょう」と言っている(26日夕)。野党はこの問題を国会でさらに追及するべきであり、小泉首相の靖国参拝が中国や韓国の国民感情を傷つける行為なのかどうなのか質問確認して言質を取るべきである。従来の政府見解を変えるのかどうか糾さなければならない。まさか私的参拝なら国民感情を傷つけず公式参拝だから傷つけるなどとは言わないだろう。16日の国会答弁の際、質問者の民主党仙谷由人は、中曽根書簡を示して小泉首相の内政干渉論の詭弁を論破するべきであった。

内政干渉論の荒唐無稽 - 86年の『中曽根書簡』と後藤田談話_b0018539_112909.jpg後藤田談話も中曽根書簡も靖国問題を内政問題だとは言っていない。小泉首相の内政干渉論が荒唐無稽な暴論であることは、こうして靖国問題をめぐる過去の日本政府の対応を示せば一目瞭然となるが、靖国問題を内政問題だと主張する論理の不当性は、二国間の事実を検証する時間的な視角以外にも、現在の空間的な視角からの証明においてさらに明らかなものとなる。シンガポールの李顕龍首相は、初来日直前の5月17日の記者会見で、小泉首相の靖国参拝に対して強く批判している。一国の指導者が靖国問題についてここまで厳しく踏み込んだのは、中国、韓国に続いて三ヶ国目であり、親日国であるシンガポールとしては異例のことである。このシンガポール首相の発言は果たして内政干渉なのであろうか。野党は国会で追及するべきであり、政府の正式見解を質し、小泉首相の内政干渉論を撤回させるべきである。

靖国神社が第二次世界大戦のA級戦犯を合祀しており、日本の指導者の靖国神社参拝はシンガポールを含むアジア諸国人民の不幸な歴史への記憶を呼び起こすものだ。戦犯を崇拝の対象にするべきではない。(CRI ONLINE
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by thessalonike | 2005-05-25 23:43 | 靖国問題 (10)   INDEX  
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