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本と映画と政治の批評
by thessalonike

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森岡発言の政治 - 用意周到な情報工作と責任不問の既成事実
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中国外務省の孔泉報道局長は27日、談話を発表し、森岡正宏厚生労働政務官が「(A級戦犯は)日本国内ではもう罪人ではない」と発言したことなどに対し「強烈な憤慨」を表明した。孔報道局長は森岡政務官の発言を「個人的でも、偶発的でもない」と指摘。小泉政権への不信感を強めていることを示しており、中国が今後、対日姿勢を一層硬化させる可能性が高い。局長は発言を「国際正義と人類の良識に対する公然たる挑戦」と非難。「日本軍国主義の野蛮な侵略によって被害を受けた国民の感情を深く傷つけるものだ」と激しく反発した。その上で「東条英機(元首相)をリーダーとするA級戦犯は世界平和と人道に対する歴史的罪人」と断定し、極東軍事裁判(東京裁判)の結果を「戦後国際政治の基礎」と、断固として尊重していく立場を強調した。また「日本は国際社会で責任ある役割を演じられるのか疑問だ」と述べ、日本の国連安全保障理事会常任理事国入りを強く牽制した。(27日共同)




森岡発言の政治 - 用意周到な情報工作と責任不問の既成事実_b0018539_12494237.jpgこの孔泉報道官のコメントは正鵠を射たものである。特に森岡政務官の発言を「個人的でも、偶発的でもない」と指摘している点と、東京裁判の結果を「戦後国際政治の基礎」と位置づける歴史認識の二点が的確である。東京裁判については別稿で詳論したいが、われわれが学校で習う歴史教育において東京裁判は基本的にこのように位置づけられているはずである。東京裁判に対するこの歴史認識は日中で共有しているものであり、日中韓三国で共有しているものであり、アジアと全世界で普遍的に共通のものである。この歴史認識の下で国際連合の正統性が根拠づけられ、今日の世界の基本的な支配秩序が正当視される。この基本認識の外側に身を置く者は、ファシストと呼ばれたり、軍国主義者と呼ばれて貶損される異端的立場を甘受しなければならない。東京裁判をめぐる歴史認識がどれほど自由であっても、国家の外交政策や教科書記述となれば、どの国の政府もこの基本認識の拘束から離脱できないのである。

森岡発言の政治 - 用意周到な情報工作と責任不問の既成事実_b0018539_12495237.jpg森岡発言の計画性と組織性の問題に注目したいが、非常に用意周到に感じるのは、この発言が26日午後の自民党代議士会でなされ、そして午後4時頃の官房長官記者会見で「政府の一員としての話ではない」という弁解が与えられ、さらに午後5時半頃の総理大臣の記者談話で「今そんな発言を取り上げてもしようがない」という曖昧化の処置が施されたことであり、これら一連の発言が夕方から夜にかけての各局テレビのニュース番組でワンセットになって報道されたことである。特にNHKの7時のニュースが華麗なショートパッケージを作って見せていた。ほんの少し政治に敏感な者が見れば、これが偶然ではなく仕組まれたヤラセの政治芝居だということは一目瞭然であろう。脚本が全部できていて、森岡と細田と小泉が役を演じ台詞を喋って、それをテレビカメラが収録してニュースクリップのパッケージにしているに過ぎない。NHKのニュースでは、森岡が登壇するところから始まって、肝心な部分が音声入りでそのまま放送された。

森岡発言の政治 - 用意周到な情報工作と責任不問の既成事実_b0018539_1250470.jpg安倍晋三が予め手を回してNHKで放送させるべく全てを仕組んだのである。森岡正宏に台本を渡したのは安倍晋三だ。政務官という微妙な立場を巧みに利用して、中国政府に対して牽制攻撃を仕掛けているのである。前日25日午前の記者会見で、細田官房長官は呉儀副首相の会談キャンセル問題について「生産的でないからコメントは差し控える」と言っている。中国を刺激する政府としての公式発言は控えたという意味だが、政府の公式発言は控えたが、政府末端で立場を曖昧にできる政務官を利用して中国政府にブラフをかける戦術に出たのである。中国と野党を挑発牽制しているのであり、マスコミを利用して宣伝を図っているのである。民主党は森岡正宏の罷免要求を出したが、この問題で国会が紛糾する様子はない。結局のところ責任問題にはならず、政府幹部の暴言がまかり通って責任を問われないという既成事実が固まりつつある。この程度の発言なら問題ないという政治実績を右翼側が占取することになる。

森岡発言の政治 - 用意周到な情報工作と責任不問の既成事実_b0018539_12501475.jpg十年前なら野党が猛反発して国会は審議中断に追い込まれ、間違いなく森岡本人は更迭されただろうし、自民党の中からも任命責任を追及する声が上がっただろう。政局になったはずであり、官邸と党執行部は更迭で事態を収拾したはずである。ここまで過激な右翼的暴言を吐く場合は、事前に派閥の領袖との間でカネとかポストとかの見返りの了解ができていて、罷免覚悟で政局の騒動を起こしたケースが殆どだった。現在は無風で野党は黙過していて、声を上げているのは中国政府だけである。郵政民営化問題などよりこちらの問題の方がはるかに重大な問題で、また国民の関心も高い事件であるのに、森岡発言の暴挙に対して正面から立ち向かう言論が国内に出て来ない。逆に森岡発言を正当化したり補強したりする佞論ばかりがマスコミに溢れ返る。週末の政治番組を皮切りにして、国内では右翼による東京裁判矮小化キャンペーンが続くことだろう。東京裁判は誤りで戦犯は無罪だという世論を多数化する情報工作に民放の電波が動員される。
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by thessalonike | 2005-05-26 23:30 | 中国の反日デモ (10)   INDEX  
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