本と映画と政治の批評
by thessalonike
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戦前と戦中の間 - 北朝鮮拉致問題は現代の満州事変である
b0018539_11111598.jpg今から七年以上前の話だが、TBS『ニュース23』の佐古忠彦キャスターが、筑紫哲也との合いの手の中で「今はもう戦後ではなくて戦前じゃないかという声もありますね」と小さく漏らしたことがある。この十年ほど佐古君は私のお気に入りで、大袈裟に言えば希望そのものだが、このときの一言は特別に印象深いもので、忘れられずにずっと心の中に格納されたままでいる。佐古君の端正で生真面目な風貌と正義と真実への真摯な態度は、日本のジャーナリズムの最後の良心を象徴しているようであり、このまま崩れず、崩されず、ずっと続いて行って欲しいと願うのみだが、佐古君のその言葉を引き継いで今の時代の本質を一言で射抜くなら、現在はまさに戦前と戦中の間である。戦中に一歩入り込んだ。その感を強くする。いつから戦中に足を踏み入れたのか。それは三年前の小泉首相の北朝鮮訪問から始まった拉致事件騒動の時からであり、街中やネット中に右翼の青リボンが氾濫し始めたときからである。



b0018539_1142257.jpg最近、北朝鮮拉致被害者問題は満州事変なのではないかという着想にとらわれて、その観念を容易に払拭できない。日本人は1945年の敗戦のときまで1931年に起きた満州事変の真実について知らず、それが軍部の謀略によって惹き起こされた侵略戦争であったという事実認識を持っていなかった。北朝鮮拉致問題についてはあまりに多くの事実が伏せられたままであり、事実が開示されない状態をマスコミが全く追及せず、右翼「救う会」の言うがままに事態が説明され、「救う会」の思惑どおりに国民の認識や感情が操縦されている。まさにプロパガンダとマインドコントロール。蓮池薫も地村保志も曽我ひとみも北朝鮮での事実を正面からありのまま証言しようとせず、「救う会」が反北朝鮮の世論を喚起したい時に適当に「実はこうだった」という情報が小出しに出される。蓮池夫妻は横田めぐみの消息について全てを知っているくせにそれを言わずに済まされている。誰もそれを問い詰めようとしない。

b0018539_123491.jpg時間が経って情報が小出しにされる都度、横田早紀江は「そんなことがあったとは初めて知った」などとテレビの前で言っている。あまりに欺瞞的ではないか。横田夫妻はとっくに全てを承知しているはずで、帰国した拉致被害者たちから娘の詳細を聞き及んでいるはずであって、北朝鮮からニセの遺骨が送還されたときも、それに対して本心では何ら怒りや憤りを覚えたはずはなく、単に北朝鮮の政治シグナル(娘の無事)の意味を了解しただけのはずなのだ。にもかかわらず、政権と右翼とマスコミはニセ遺骨を北朝鮮の不誠実だとして世論を掻き立てて、国民の北朝鮮憎悪を煽りまくった。拉致問題について正確な真実は何も解明されず、北朝鮮は悪だから崩壊させるべしというファナティックな世論で一方的に塗り潰されている。北朝鮮問題に限って言えば、日本の報道は旧社会主義国のそれと全く同一であり、まさに全体主義国家の宣伝洗脳報道そのものである。報道が管理統制され、政治の道具となっている。

b0018539_11425687.jpgそもそも五年前に前首相の森喜朗が北との交渉で拉致被害者救出に動いたとき、第三国で発見される予定の被害者名簿の筆頭に名前が上がっていたのが横田めぐみと有本恵子の二人だった。二人が死んでいるはずがない。日朝平和友好条約が締結されれば、その日にどこかで生き返って出て来るだろう。拉致問題は右翼に利用されて北朝鮮との戦争の道具にされようとしている。思えば、現在の世界の中で隣国同士の関係で北朝鮮と日本ほど一触即発の国が他にあるだろうか。特に先進国の中で隣の国と今にも戦争が始まるのではないかと思われるほど緊張状態に入っている国が他にあるだろうか。世界から見て、現在の日本の北朝鮮に対する対応は相当に異常に映っているように思われる。北朝鮮と日本との関係は間違いなく冷戦である。いつ熱戦に転じてもおかしくない冷戦状態にある。米朝以上に日朝が緊張している。米国を除いた先進国で周囲の国と冷戦状態にある国は他にないのではないか。

b0018539_1143820.jpg北朝鮮との冷戦が政治的に固定化され、それを理由にして有事法制が施行され、その体制が徐々に強化されている。憲法改正が果たされ、徴兵制と核武装が実現されるまで、右翼はこの拉致問題を利用し続けるつもりであり、拉致被害者救出というのは嘘で、本音は金正日独裁体制を維持させたまま、すなわち拉致被害者の身柄を北朝鮮内に置いたままの状態を続けさせて、北朝鮮との冷戦の緊張を極限まで高めたいのである。右翼は小泉首相任期中の、またポスト小泉以降の政権の日朝平和友好条約締結を絶対に阻止するだろう。逆もまた真で、金正日独裁体制にとっては、米日との一触即発の危機の継続こそが国内の体制を維持できる唯一の保障装置となっている。簡単に米日と和睦協調して改革開放へと歩を進められない事情があり、左手で経済支援を請いつつ右手で核ミサイルで脅すという矛盾した虚勢外交を続けざるを得ない。満州事変から日華事変まで六年。あと三年後の日本を想像すると空恐ろしい。

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by thessalonike | 2005-06-10 23:30 | 北朝鮮問題考 (10)   INDEX  
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