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本と映画と政治の批評
by thessalonike

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村上春樹『アフターダーク』 (8)- 神よ、天空から降りて人になれ
村上春樹『アフターダーク』 (8)- 神よ、天空から降りて人になれ  _b0018539_23414011.jpg村上春樹には早くノーベル文学賞を取らせたい。現在、最有力候補の位置にあるのは確実で、いつ受賞してもおかしくないし、五年以内には間違いなく賞を受けているだろう。人には常にアクシデントがある。思いも寄らぬ病気もある。取れるものはなるべく早く取っておいた方がいいのだ。神である村上春樹に地上で残された最後の関心はそれしかあるまい。また、ここ十年ほどの村上春樹の行動を見ても、最終ゴールである賞取りのために着々と布石を打っているように傍からは見える。外国で売ろうとしているし、外国で評価を得ようと努めてきた。無論、それでいい。日本国内だけで売れる作家ではノーベル賞は貰えない。まず欧州、そして北米、それから中韓で読者を掴み、評価を確固たるものにする必要がある。作品の質として、村上春樹ほど文学たるに相応しく、ノーベル賞に相応しい作家は他にない。



村上春樹『アフターダーク』 (8)- 神よ、天空から降りて人になれ  _b0018539_23415416.jpgと思うのだが、できればもう一つ欲しいものがある。無理に必要ないかも知れないが、何かと言うと、もう少し別な面からのアクセントと言うかインパクトである。村上春樹について、単に作品に対する評価だけでなく、人物についての話題や評判がもう少しあってもいいのではないかと思われる。簡単に言えば、知識人としての村上春樹の人間像が浮かび上がっていた方がいいのではないかと思うのだ。例えば大江健三郎は、その点では明確に知識人としての人間像を確立させていた。大江健三郎の作品を読んだことのない人間でも大江健三郎が立派な知識人であることは知っていたし、どのような思想の持ち主かは了解していた。そのことは欧州や米国においても情報として広範に知られていただろうし、大江健三郎の思想や行動は欧米の知識人の世界で好感を持って受け止められていただろうと思われる。

村上春樹『アフターダーク』 (8)- 神よ、天空から降りて人になれ  _b0018539_2342573.jpgそういうことが少しあってもいいのではないか。特に米国(での評価)を考えたとき、これは想像だが、米国で村上春樹を読んだことのある読者は稀で一握りだろうし、名前を知っている者もごく僅かだろう。村上春樹について多少は人間像のイメージが入っていた方が有利であるように思われる。で、早い話、何を言いたいかと言うと、突然で恐縮だが、村上春樹には「憲法9条の会」に入って発言をしてもらいたい。そろそろ、そういう評論活動を起こしてもらいたいのである。文学的意欲が旺盛な村上春樹にはまだまだやりたいことがあるだろう。実験もやりたいだろう。若い日本の読者の心も掴んでみたいだろう。それはそれで結構だが、やはり知識人としての自己を完成するという方向にも関心を持って欲しいのだ。世界の知識人が「彼なら当然」と太鼓判を押して祝福するような作家であり受賞であって欲しいと思う。

村上春樹『アフターダーク』 (8)- 神よ、天空から降りて人になれ  _b0018539_23421453.jpgつまり私は村上春樹に対して、天空の神として超越的にあり続けるのではなく、そろそろ人になって俗界に降りてきたらどうだと勧めているのだ。そして現在の日本で、本格的に知識人らしい知識人になれるカリスマは村上春樹以外にいない。日本人の大多数に決定的な精神的影響力を持ち、世界に向けて言葉を発信できるのは、村上春樹以外に一人もいない。他にはもう一人の人物もいないのだ。村上春樹も55歳。司馬遼太郎が小説の筆を折って『この国のかたち』などの文明批評に精力を集中させるようになったのは、60歳を過ぎた頃で、他界する十年ほど前からだった。司馬遼太郎は「自分は日本とは日本人とは何かを書いてきた」と言い、ただの小説家ではなく、まさに巨大な知識人として自己を完成させて行った。その才能からして自然な成り行きであり、われわれ読者はそれを求め、司馬遼太郎はそれに応えた。

村上春樹『アフターダーク』 (8)- 神よ、天空から降りて人になれ  _b0018539_23422452.jpg村上春樹はどうするのか。受賞後を待っているのか。村上春樹が描いてきたのは現代の世界であり、小説の中には日本の現代とそこに生きる自分が写し取られていた。村上春樹は現代を見ているのであり、時代を押さえている。時代の変化を見事に読み取っている。発言したいことはあるだろう。自分のメッセージが百人百様で解釈されるだけでなく、一つの意味で社会全体に浸透するという契機について何の欲望も持っていないはずはない。発言すべきだ。村上春樹以上の知性は日本に最早なく、村上春樹以上に人を説得できる文章を書ける人間は他にいない。村上春樹以上に素敵な日本語の文章を並べて、読者の心を感動させられる作家は他にいない。司馬遼太郎は人から神になったのだが、村上春樹については神から人になって欲しい。下界に降りてきて、知識人として発言して欲しい。それが私の願いである。

村上春樹『アフターダーク』 (8)- 神よ、天空から降りて人になれ  _b0018539_23423892.jpg

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by thessalonike | 2004-09-08 22:30 | 『アフターダーク』 (8)   INDEX  
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