本と映画と政治の批評
by thessalonike
カテゴリ
INDEX
『ダ・ヴィンチ・コード』 (7)
『アフターダーク』 (8)
『グッドラック』 (5)
『いま、会いにゆきます』 (5)
『ハウルの動く城』 (8)
『ブラザーフッド』 (6)
『シルミド』 (5)
『スキャンダル』 (4)
『グッバイ、レーニン!』
『ピアニスト』 (4)
『特別な一日』 (2)
ジュンク堂書店新宿店
丸の内オアゾの丸善本店
ライブドア問題考 (2)
球界再編 ・ 岩隈移籍考(10)
プロ野球関連 (5)
読売巨人軍考 (7)
米大統領選考ほか(5)
テロ ・ イラク戦争 (3)
憲法 ・ 改憲 ・ 平和 (7)
竹島問題・日韓関係 (8)
北朝鮮問題考 (10)
中国の反日デモ (10)
東京裁判 ・ 南京事件 (10)
歴史認識 (7)
靖国問題 (10)
郵政政局 ・ ポスト小泉 (10)
郵政民営化 ・ 総選挙 Ⅰ (15)
郵政民営化 ・ 総選挙 Ⅱ (15)
プロフィール ・ その他

access countベキコ
since 2004.9.1



『Good Luck』(5) - ポプラ社のブランドとカスタマ
b0018539_16484988.jpg
私も、最初に原稿に目を通した時から、単純でありながら実に奥が深いこの物語の虜になってしまい、同じように感銘を受けた社内の人間たちと「この本を一人でも多くの読者に届けるために、できることはなんでもしよう!」を合い言葉に、さまざまな試みをしながら本づくりに取り組んできました。(中略) 「児童書のポプラ社」という看板でやってきたポプラ社に「第三編集部」という一般書の部署ができて丸4年。この歴史は、第三編集部発足と同時に入社した私の歴史でもあります。とにかくなんでもアリ、編集者の惚れ込み度の針が思いきり振れていれば大抵の企画が通る、という無茶で幸せな職場ですが、「大人も子どもも楽しめる」「本好きでなくても読める」「読んで元気になれる」というポプラ社だからこそのコンセプトは大切にしたいな、と思ってきました。そんな中で生まれたこの『Good Luck』は、まさにポプラ社第三編集部らしい、胸をはって売りまくりたい一冊です。お力を貸してくださったたくさんの方への感謝も込めて、これからしばらくのあいだ、突っ走らせていただきます。




b0018539_16491114.jpgこれは、あるサイトの中にある、ポプラ社第三編集部の斉藤尚美氏の文章である。この人が『グッドラック』の担当編集者らしい。一読して「売りまくりたい」というのが本音だというのがよく分かる。この原作の何に感動したのか、どういう感動を読者に届けたいのか、その点については書かれていない。そんな哲学は特に無いようである。売れると直感して、他社より先に日本での版権を押さえたのだろうか。マーケティングの成功であり、ビジネスの成功物語だ。だが、この事業的成功についてはあまり素直に喜んで見ることができない。私自身はマーケティングという学問は好きである。村田昭治は素敵だと思うし、コトラーも嫌いではない。市場という観点から社会を科学する知識体系。立派な(市民権を持つべき)社会科学だと思っている。だが、マーケティングをやる者が常に注意しなければならないことは、市場は絶対的な神ではないということだ。売れたから万事がOKではない。儲かったからそれでいいというものではない。

b0018539_16492625.jpgマーケティングをやる者は、自己と市場を常に限定的抑制的に捉えておく必要がある。例えば、今、原油価格が高騰して石油資本はボロ儲けをしているが、マーケティングという観点から見れば、石油の価格を上昇させて儲かる仕組みを作ったのは、侵略戦争であるイラク戦争を強引に惹起したブッシュ政権であり、政権中枢で政策決定している副大統領のチェイニーだろう。チェイニーはハリバートン社の重役であり、補佐官のライスはシェブロン社の重役であった。イラク戦争は彼らに巨万の富を齎せたが、果たして、売れる仕組、儲かる仕組を作ったから、彼らはマーケティングの成功者だと言えるだろうか。そういう成功を成功と呼べるだろうか。マーケット(市場)やマーケティング(市場学)を万能視したり神聖視したりできないのは、典型的にはこういう問題状況があるからであり、こういう胡散臭さが常につきまとうから、逆に言えばマーケティングは社会科学としての市民権をアカデミーの中で得られないのである。

b0018539_16495611.jpg『グッドラック』のヒットをマーケティングの成功劇だと自画自賛して宣伝するのは自制していただきたい。それはポプラ社がこれまで築き上げてきたブランドと伝統に傷をつける行為であり、ポプラ社の児童書に信頼を寄せてわが子を教育してきたこの国の中産インテリ階層、すなわちポプラ社の従来のカスタマの心を傷つけることだ。ついでに言うと、私は著者のアレックス・ロビラに関する情報にも神経を尖らせてしまう。その人物紹介文の一字一句を眺めながら、あれこれと想像を廻らせ、ひとりで一喜一憂するのである。それもこれもポプラ社のブランド・イクイティというまさにマーケティング的な重大な問題が懸かっているからだ。ポプラ社のブランドが傷つくことは、吉野源三郎に薫陶を受けて育った自分自身が傷つけられることに等しい。他人事とは思えない。ロビラについてはこんな具合にプロフィールが書かれている。

ヨーロッパが誇るビジネススクールESADEで学んだ、経済学者およびMBAホルダー。心理学にも詳しく、戦略的療法、システマティック療法、サイコドラマ、形態心理学などに通じている。卒業後は複数の企業でマーケティングに携わり、キャリアを積む。96年、コンサルティング会社を起業。スペインの大手企業や世界で活躍するNPO団体(国境なき医師団、赤十字など)の仕事を請ける。99年、民族学的調査と戦略的なマーケティングプランに重点を置いた新しい境地を開拓。2年後には著しく成長を遂げ、ヒューレット・パッカード社やマイクロソフト、ソニー、モルガンスタンレー、メルセデスベンツといった世界企業をクライアントとするまでになる。

b0018539_16521518.jpgESADEというのはいいだろう。米学でなくてよかった。国境なき医師団のコンサルティングの実績はよい。評価できる。マイクロソフトは気にいらない。HPだのソニーだの、どんなマーケをやったのか。ロビラとベスは次の本を書いて売るだろう。そこに何が書かれるかで彼らの評価が決まり、そして作品『グッドラック』の最終的評価が決まる。『星の王子さま』のような古典になるかどうかも決まる。コトラーの慧眼が本物かどうかも決まる。『グッドラック』を売ったポプラ社第三編集部の評価も決まる。私は、懐疑と期待とあい半ばの気分で、コンサルタントである二人の著者とポプラ社の今後を見守っている。
b0018539_16505852.jpg

[PR]
by thessalonike | 2004-09-25 23:30 | 『グッドラック』 (5)   INDEX  
<< 丸の内オアゾの丸善本店 - 雨... Indexに戻る 球界再編考(1) - 古田は日... >>