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本と映画と政治の批評
by thessalonike

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韓国映画『シルミド』(4) - 事実の歪曲、歴史の捏造
韓国映画『シルミド』(4) - 事実の歪曲、歴史の捏造_b0018539_12243942.jpg『シルミド』に関してネットで収集できる日本語情報に接している間に重大な問題を幾つか知り及んだ。作品全体の評価を決定づける深刻な問題であるように思われる。映画だから、たとえ歴史的事実の再現と言っても、多少の脚色や演出はやむを得ない。だが、絶対にやってはいけないこともある。それは歴史の捏造と歪曲だ。真実を歪めてはいけない。この映画ではカン・ウソク監督がかなり意図的に事実の歪曲をやっている。最も重大な歪曲は、実際にはシルミドの684部隊に対して抹殺命令は下されておらず、事件は劣悪な待遇への不満から暴発した訓練兵の反乱であったという事実である。これは看過できない問題ではないか。映画では中央情報部が政治方針の転換を理由に部隊の抹殺を指令し、指導兵が訓練兵全員の射殺を決行する夜に、その情報を漏れ聞いた訓練兵が殺される前に相手を殺すべく蹶起する。



朝鮮日報の特集記事の中に、シルミド部隊の指導兵の生存者の一人の証言が紹介されている。

実尾島部隊で実際に小隊長を務めたキム・バンイル(59)氏は29日午前に放送されたMBCテレビの『トークショー・林成勳(イム・ソンフン)と共に』に出演し、映画とは異なり実尾島部隊の工作員に対する射殺命令はまったくなかったと証言した。(中略)他の部隊員3人と共に番組に出演したキム氏は「完全に管理されていた訓練兵たちは、時間と共に訓練が緩んでいき、補給が劣悪になって反乱を起こすようになった」と説明し、「将校に昇級させたり、保障を約束して解散させるといった案やベトナムに派兵させる案を(上部に)建議した」と述べた。キム氏は「訓練兵たちが死刑囚や無期囚として描写されている映画とは異なり、実際にはスリ、靴磨き、トラック運転手、サーカスの団員など、さまざまな職業を持った人物たちだった」とし、「実際の訓練レベルは映画の10倍以上厳しかった」と語った。

韓国映画『シルミド』(4) - 事実の歪曲、歴史の捏造_b0018539_14313438.jpg抹殺命令がなかったのにあったことにしてはいけない。これは明らかに脚色を超えて捏造である。映画の後半に権力上層部の人間が何人も登場して、シルミド部隊抹殺へと展開を運んで行くのだが、その件(くだり)が妙に不自然で映画全体が怪しくなる。おかしいなと首を捻っていたら、やはり抹殺指示は存在しなかった。この時点で映画『シルミド』は完全な作り話になっている。『シルミド』の日本語公式サイトには次のように書かれている。「<金日成>暗殺部隊、抹殺!その壮絶な真実を完全映画化!!」 「これはフィクションではなく、時代に翻弄された男たちの衝撃の事実だ!」。真っ赤な嘘である。またカン・ウソク監督は来日時の試写会記者会見の席でこうも言っている。「映画を見た観客の方々に、あたかも事件の目撃者だと感じてもらえるようにしたのです。"シルミド"は修飾しなくても題材自体が衝撃的なストーリーなので、あるがままに率直に描こうと思いました」

実際には修飾どころではない。歪曲だ。朝鮮日報の特集記事の中に原作者のペク・ドンホのインタビュー記事が掲載されていた。これを読むと捏造は「抹殺命令」の話だけではない。映画ではアン・ソンギが演じる部隊長のチェ准尉が、国家と部隊との板挟みになって頭を拳銃で撃ち抜いて自殺を遂げるのだが、実際にはそれもなかった。嘘なのだ。部隊長も他の指導兵たちと同様に訓練兵の手で殺されている。

ペクさんは映画を観ながら2度泣いたという。1回目は映画のシーンに没頭して泣いてしまい、もう1回は自分が調査した事件の真実が受け入れられなかったため、泣いたという。「康祐碩監督は映画の悲壮美のため、訓練兵をすべて殺し、部隊長(アン・ソンギ扮す)も自殺することで映画を終わらせました。実は訓練兵24人中、1人以上が生きています。部隊長も自殺したのではなく、訓練兵がハンマーで殴り殺しました。興行のためには悲壮な結論が必要だというのが監督の考えで、結局その部分は合意できなかったんです」。しかし、ペクさんは記者の前で、「でも私は事実に対する未練を捨てられないんです」とつぶやいた。

韓国映画『シルミド』(4) - 事実の歪曲、歴史の捏造_b0018539_14311072.jpgひどい話ではないか。板挟みになったのは684部隊長のチェ准尉ではなくて原作者のペク・ドンホであった。カン監督の捏造と事件の真実の間で板挟みになったのである。結局、ペク・ドンホは折れている。カン監督から金が出たのではないか。カン・ウソクは韓国最大の投資製作配給会社であるシネマサービスの会長でもある。そもそも、最初のカン・ウソクの『シルミド』製作の動機は歴史の真実を描くことではなく、歴史を題材にしてハリウッド映画に匹敵するアクション映画を製作することだった。監督自身が自分の口でそう語っている。この作品は何か社会的に告発しようというつもりでスタートしたのではありません。ハリウッドに勝てる韓国映画を作りたいと思い、この題材とめぐり会い「これなら勝てるかも」と思いました

これは西日本新聞のインタビューに答えてのものだが、この席ではこうも言っている。

ところが、事件の生存者や遺族、国の機関など調べていくうちに、これは大変なことだと気づきました。ハリウッドに勝てる商業映画を作ろうというのはだめだと分かり、歴史的な事実をきちんと伝えなければ、という気持ちに変わりました。

と日本で語ったカン・ウソクだが、本国の朝鮮日報のインタビューでは一転してこう言っている。

-歴史的な状況がしっかり説明されておらず歴史を歪曲したという批判もあるが。

「映画はどうせ『フィクション(fiction)』だ。『シルミド』もやはりドキュメンタリーではない。実話に対する負担感は故人の冥福を祈る献辞が書かれた最後の字幕が上がる時だけ感じればよい」

この監督は信用できない。

日本語公式サイト
来日試写会イベント
西日本新聞インタビュー
朝鮮日報特集記事サイト
by thessalonike | 2004-10-25 23:54 | 『シルミド』 (5)   INDEX  
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