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本と映画と政治の批評
by thessalonike

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米大統領選考(3) - アメリカ合衆国におけるファシズム
米大統領選考(3) - アメリカ合衆国におけるファシズム_b0018539_10475592.jpgブッシュ政権の四年間は忌まわしい四年間だったが、その中でも最も忌まわしかったのは、イラク戦争が始まる前後の2003年の1月から5月の半年間だった。思い出すのも苦痛だが、あのとき間違いなく日本は戦時下に置かれた。生まれて初めて戦時下というものを体験した。戦時下の社会とはどのようなものかを生の体験で実感させられた。毎日毎日、ブッシュが演説するテレビの前に座らされ、国営放送ワシントン支局長の手嶋龍一が、日本語しか言語能力のない哀れな極東の臣民のために、畏れ多くも皇帝陛下のお言葉を解説してくれていて、プアな臣民どもは手嶋龍一がホワイトハウス前から届ける皇帝陛下の玉音の要約に慎み深く聴き入っていた。属州であり、戦場からは遠く離れているが、わが日本も戦時下になっていた。属州なりに帝国に奉仕せねばならず、皇帝が指揮する正義の戦争に翼賛しなければならず、皇帝の軍隊の勝利を応援しなければならず、属州内で皇帝を誹謗する不敬で不心得な輩を摘発しなければならなかった。



米大統領選考(3) - アメリカ合衆国におけるファシズム_b0018539_10481243.jpg手嶋龍一と森本敏が教導する戦時下の属州臣民のガイドラインに服さなければならなかった。その窮屈な日々が嫌で嫌で堪らなかった。精神の拷問を受けているような苦痛な時間だった。わが国の憲法の理念からすれば、当然、米国の侵略戦争に対して国民と政府は反対と糾弾の姿勢を明確にしなければいけない。最も急進的な反戦主義を国是として掲げている先進独立国家であれば、日本国の首相と元首は、米国の政府と議会と国民に対して、イラクに対する侵略戦争を断固中止するべく勧告しなければならなかったはずであり、欧州諸国やロシア・中国と協調連携して、世界政治における反戦ブロックの一員として行動するのが当然であった。その外交政策は極東地域の安全保障を二国間で定めた日米同盟と何ら矛盾抵触するものではない。フランスの態度こそ同盟国として正しい。独立国であればそうするべきであった。2月から3月、寒い季節に日比谷公園へ行ったが何にもならず、ただ辺見庸の見事な文学に耽溺して鬱を散じるのみだった。

米大統領選考(3) - アメリカ合衆国におけるファシズム_b0018539_10482697.jpg印象に残っているのは、一般教書演説だか何だったか忘れたが、ブッシュがコングレスでイラク戦争開始前にそれを正当化する長い演説を行っていた時の映像で、それは聴くに耐えない出鱈目なものだったが、スピーチのセンテンスが終わる都度、ワン・センテンスが区切られる直前に、民主党の議員たちが率先して起立して、大統領に対して満場の拍手を送っていたことである。嬉しそうな顔をして、心から支持するという意思を表情と全身で作って拍手していた。その中にヒラリー・クリントンもいた。テレビカメラが議事堂内を回り、ヒラリーを捉えるとき、ヒラリーは一生懸命にブッシュ支持の笑顔を作ってカメラに撮らせていた。欺瞞に満ちたアメリカン・デモクラシー。ヒラリーはビル・クリントンと結婚する前、結婚した後も、優秀な人権派弁護士だったのではないのか。社会的弱者の権利保護のために先頭に立って戦う著名な法曹の闘士だったのだろう。ヒラリーの名声は、その優秀な頭脳のみによってではなく、弱者救済の立場と実績によって培われたものである。

米大統領選考(3) - アメリカ合衆国におけるファシズム_b0018539_10484380.jpg米国は指導者が戦争をおっ始めれば誰もが無条件でそれに従う。ストップをかける存在が政治権力の中にない。野党もメディアも侵略戦争を是認し翼賛する。1月18日のワシントンの反戦集会には極寒の中を50万人が終結して気勢を上げたが、それは草の根の民衆の動きであり、彼らの声が権力構造上部に反映して実体政治を動かすには至らなかった。全て911テロに還元され、対テロ国家防衛の大義によって一色に塗り潰され、侵略戦争に反対する動きが封殺された。イラクに大量破壊兵器が無いなんてことは、普通の知性を持った米国市民なら少し考えれば簡単に判断できていたことだろう。核攻撃があるのに地上軍が国境から進軍するはずがない。大量破壊兵器が存在しない事実は、誰よりも情報を精査したパウエル自身が知っていたに違いなく、そのためか例の2月5日の国連安保理での(イラク大量破壊兵器存在事実立証の)プレゼンテーションは、頭脳明晰なパウエルのいつもの沈着冷静を欠いた不自然で不具合なものだった。

米大統領選考(3) - アメリカ合衆国におけるファシズム_b0018539_10485589.jpg50年代の米国のマッカーシズムを30年代のドイツのナチズムと類比して分析考察し、ファシズムの社会的本質を論じたのは丸山真男である。R.ベラーだったかB.クリックだったか忘れたが、英語版の『現代政治の思想と行動』を学生たちと演習で読みながら、ファシズム論の視角で米国現代社会が対象化され、ナチスムとの類似性を突き付けられて学生ともども衝撃を受けた事実をどこかで告白していた記憶がある。マッカーシズムの米国が(半世紀も経った後の21世紀に)見事に復活している。コミュニズムがテロリズムに置換されて。次に米国内でテロ事件が発生し、政権がイラン攻撃を主張したとき、野党やメディアやアカデミーはどう反応するのだろうか。世界で最も民主主義的な社会を実現していると言われている米国で、信じられないような政治的欺瞞と全体主義が罷り通り、多数化し絶対化した狂気が正常で健全な反論を圧倒している。

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by thessalonike | 2004-11-09 22:59 | 米大統領選考ほか(5)   INDEX  
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