本と映画と政治の批評
by thessalonike
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イタリア映画『特別な一日』(1) - 大人の愛の不朽の名作
b0018539_15495341.jpg偶々NHKのBSで放送されているのを目にして、そのままテレビの画面に釘づけになって最後まで見終えてしまった。この映画作品を見るのは映画館で二回、テレビで一回、録画ビデオで一回、だからこれで五回目になる。見るたびに感動が大きくなり、傑作だと思わされる。最初に見たのは公開上映された一九八四年で、今から二十年も昔になる。平日の昼間に、こっそり仕事を抜け出して、キネカ大森まで行って見た。まだ若く、毎日が多忙な頃だった。前回、ふと思い立って録画ビデオを見たのが十年前くらいになるだろうか。自分も遂にこの映画の登場人物に近い年齢になり、なおさら深い感慨を持つ。イタリア映画の黄金コンビ、ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニの好演が素晴らしい。同じ映画をこうして見ながら、さらに新鮮で大きな感動を覚えられた事を思うと、作品そのものの普遍的なよさとは別に、年をとることも決して悪いことばかりではないという気分になる。懐かしさだけでなく、前よりも深い感動を確かに感じたのだ。



b0018539_1550890.jpgソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニはこの映画が九本目の共演作。この二人と言えば、まず『ひまわり』が挙げられるが、私は『特別な一日』が代表作だと考えている。映画の場面のほとんどが二人の会話だけで構成されていて、しかも一コマたりとも隙がない。映像や演技に欠陥がない。完成度が高い。何度見ても不足や過剰や退屈を覚える場面がなく、展開に見入りながら自然に映像が流れて行く。二人の表情や台詞だけに注目しても素晴らしいし、撮影の技法や構図や配置された小物に注意しても面白い。出演者は限りなく少なく、大仕掛けなセットは何もなく、ひたすら素材は地味なのだけれど、映像はセンスよくきれいに仕上がっていて、二人の俳優に完璧な演技をさせる舞台を提供している。監督の知性を感じる。最初から最後まで見事に仕上がっていて、映画の完成度という言葉は、まさにこの作品を表現するためにあるような気がする。観客は完全に二人に感情移入する。深みがありながら、分かりにくさがない。

b0018539_15502655.jpg一度も見たことのない人にこの映画がどんな物語かを説明しようと考えて、あれこれ言葉を頭の中で並べていたが、そうしているうちに、それを読んだ人が『マディソン郡の橋』をイメージするのではないかと思えてきて躊躇した。ストーリーを言葉で要約すれば何となく似た感じのものになる。けれども作品の中身の印象はずいぶん違う。どちらも内面的なものがあるが、米国の農村の軽薄さと欧州の都市の重厚さの違いと言えばいいだろうか。そしてここには現代史(ファシズム)の問題が入っている。こういう映画は多くあるようで実は少ない。『特別な一日』は不朽の名作として人々の心に残り、長く語り続けられるだろう。暫くぶりに見た感動の一つは、ラブシーンが素晴らしいという発見だった。見事と言うほかない。二人の演技、脚本と演出。イタリア人は大人の愛をよく知っている。クライマックスの大事な情交シーンに不自然さがなく、いい感じに出来ている。性はどこまでも内面的なものであり、そしてそれをどう表現するかで人間の知性が決まる。

b0018539_155043100.jpgアパートの屋上で洗濯物を取り込むあのシーンが素晴らしい。低いカメラ位置から光と影で映像演出された二人の大人の愛の場面が素晴らしく、ソフィア・ローレンが愛を告白する瞬間の表情に胸を詰まらされる。最初にこの映画を見たとき、ソフィア・ローレンを見て、ああすっかり年をとっておばさんになったなあという印象を受けた。今回は老け役への挑戦かしらと思ったのだ。その年増女のソフィア・ローレンが恋をして変わり、どんどん美しい女になって行くのである。表情が輝き、ああこの人はやっぱり美人女優なのだなと思いを新たにする。変わるのだ。ソフィア・ローレンのアントニエッタが一番美しい女の顔を見せるのは、マルチェロ・マストロヤンニのガブリエレとの情交後の会話の場面だった。「ふしぎね、全然、後悔してないわ。だって、夫とは一度もこんな風にはならなかった。こんなだとは思わなかった。あんたは?」自信を取り戻した女の顔。ソフィア・ローレンは映画の最初から最後まで、薄汚れた部屋着と破れたストッキングのみすぼらしい姿で通すのだが、存在感が変わって行く。

b0018539_1551373.jpgいい年をした中年の、その日に偶然出会ったの男女が、わずか半日であのような関係になるのは不自然だと思うのが当然だが、映画のドラマの流れは自然すぎるほど自然で、見ているこちらが、早く二人を結ばせたくてたまらない気分になる。マルチェロ・マストロヤンニのガブリエレの方には性的な欲情の契機はなく、ただ孤独で優しい知的ないい男であり、愛を求め、誘い導くのはアントニエッタのソフィア・ローレンの方なのである。アントニエッタが二度目にガブリエレの部屋のブザーを押したとき、彼女は心を決めている。だが、そのクライマックスに到達するまでに十分すぎるほど二人は心を通い合わせ、互いを深く分かり合っていて、身体が結ばれることだけが残されている。脚本が秀逸で、展開が自然であり、そして情交の場面もこれ以上なく自然なのだ。女の演技も自然だと思ったが、男のガブリエレの方には、さらに強く共感する。男はあのようになるのが自然だ。セックスはどこまでも内面的なものなのだから。エットーレ・スコラ監督は素晴らしい。
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by thessalonike | 2004-11-11 23:43 | 『特別な一日』 (2)   INDEX  
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