本と映画と政治の批評
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カテゴリ:『グッバイ、レーニン!』( 1 )
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ドイツ映画 『グッバイ、レーニン!』               
b0018539_1852539.jpg話題を集めた昨年のドイツ映画の傑作。飯田橋ギンレイホールで上映中の情報を得て、ようやく見ることができた。文句なしに面白い。生まれ育った国家の喪失、理想の喪失、それがテーマなのだが、初めにズバリ結論を言えば、これはまさに他人事ではなく、われわれ自身の現在の問題であるように思われて仕方なかった。街路を歩くクリスティアーネの上をヘリコプターに吊るされて捨てられてゆくレーニン像は、憲法9条そのものではないのか。私が生まれ育った国家とその理想は、今まさに崩壊と消滅の淵にあり、同じ日本人によって笑い者にされ、ゴミ屑同然の扱いを受け、あのレーニン像のように廃棄処分されようとしている。映画の中のベルリンの家族が祖国である東独を失ったように、私は私の祖国である戦後民主主義と平和主義の日本を失おうとしている。

b0018539_18521598.jpg主演のアレックスの相棒役のデニスが、映画の中で東独のテレビニュースのアナウンサーに扮して原稿を読み上げる場面がある。実にそれらしくて面白く、つまりいかにも社会主義国の報道官僚らしい表情と発声が演技されていて、あのニュース映像の場面が出るたびに吹き出してしまったが、それを見ながら逆に自分の側にハネ返ってきたのは、70年代のスポ根アニメを短いショットで集めた特集番組を放送する度に、番組に出ている下劣で低能なお笑いタレントたちが寄って集って囃し立てて、この頃は何でこんなに目が燃えているんだとか言いながら笑い物にしている姿である。この種の番組はこの10年ほどよく見る機会があるが、単に昔のアニメを懐古しているのではなく、明らかにその時代の日本人の価値観を貶め卑しめる演出と趣向で制作されている。

b0018539_18522856.jpg末期東独の国民大多数が社会主義の体制を憎悪し、呪詛し、自由と民主主義と経済的繁栄を渇望して、国境を越えて西側に脱出しようともがいていた中、あの母親のクリスティーネのように、最後まで社会主義の理想を信じ、理想の実現を夢見ていた人間も少なくなかったに違いない。デニスが作ったニセのニュースビデオの最後の映像を見たとき、クリスティーネから「素晴らしい」という感嘆の一言が漏れる。そのとき、クリスティーネはすでに東独の国家崩壊の事実を感じ知っていて、アレックスの気遣いに応えて騙されているフリをしていたに違いないのだが、クリスティーネが「素晴らしい」と思ったのは、デニスが制作した映像作品の演出とメッセージであり、同じ民族が体制とイデオロギーを境して敵対し合うのではなく、協調し融合して一つになるべきだという主張だった。

b0018539_18523994.jpgクリスティーネは単なる政治ロボットではなく、イデオロギーの殉教者ではない。だから観客はクリスティーネにも共感でき、この映画に心から感動することができるのだ。このクリスティーネを演じている女優のカトリーンザースが美しくセクシーで魅力的だ。現在48歳。経済が停頓し、秘密警察が市民を恐怖支配する東独の社会主義体制は、中で暮らしている民衆にとっては怨嗟と絶望の対象であったに違いないが、一部ではあるが世界に誇れる国家として面目を保つ部分もあった。東独はスポーツ大国で、70年代から80年代の五輪では米ソ二大国に次いで第三位のメダル獲得国であり、二大国を常に脅かす位置にあった。ドイツ人の社会主義国。日本では加藤哲郎氏のサイトの中に東独へのノスタルジーが綴られている。加藤哲郎氏も夢中で見入っただろう。

b0018539_1852499.jpg日本はドイツと同じ第二次大戦の戦敗国だが、運よく全土が米軍の占領下に入ったためにドイツのようにイデオロギー対立の前線で国家を二つに割かれる事態には至らなかった。だが国境こそ画されなかったものの、国内で人々が二つの勢力に分かれて対抗競争した点は同じであり、そしてドイツのようにドラスティックな形態ではないが、同じ日本国民が歴史の結果として勝者と敗者に分かれたのも事実である。敗北したのはイデオロギーだが、そこには生身の身体があり人間の生活がある。国鉄清算事業団とか、沖電気争議団とか、気になる人々の影は幾つもあるが、それらも全て歴史の彼方に姿を消そうとしている。ドイツでもこの問題は暫く尾を引くだろうが、日本では今後どうなるのだろう。パンフレットに寄せらている川本三郎氏の評論の文章が素晴らしい。
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by thessalonike | 2004-09-10 22:47 | 『グッバイ、レーニン!』   INDEX  
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