ウクライナ情勢と北方領土問題 - 国境線の歴史的変動
b0018539_11114837.jpg日本人から見ればウクライナ問題は対岸の火事の他人事のように見えるが、実は決してそうではない。この問題はわれわれ日本人にとってきわめて重要な意味を持つ。それは関連株がどうとか言った小手先の経済の話ではない。ウクライナ問題は北方領土問題に直接絡む。その点を正当に指摘したメディアの報道や専門家のコメントに未だ接し得ていない。ウクライナの今後の行方は、わが国とロシアとの間の国境線の線引きに大きく影響を及ぼす可能性を孕んでいる。今回、プーチン大統領は来年早々に予定されていた日本訪問を延期した。理由は北方領土問題で日本の外務省が望むところの「前向きな」共同声明の文言を出すのを憚ったためだ。今回プーチンは早々と二島返還の線を日本外務省に打診して牽制し、来日をキャンセルする選択をした。無論、日本の外務省が二島返還では首脳会談を開催できないのを見越した上での策である。訪日を回避したのだ。



b0018539_11121087.jpg北朝鮮問題にせよ、サハリンやシベリアの天然ガス開発にせよ、日露間にはこの機会に首脳間で詰めるべき重要問題が山積しているはずで、それは経済的にはロシアにとってメリットの多い話であり、プーチンにとって訪日外交は国家元首としてのトップセールスの稼ぎ時なのだが、ビジネスのオポチュニティを断念して訪日を中止しなければならないほど、北方領土問題というのは現在のロシアにとってクリティカルな問題なのである。ここで安易な妥協は見せられない。ロシアの国境線を内側に後退させる弱腰な姿勢を見せられないのだ。西のウクライナがEUに侵食されようとしているときに、東の日本に対して国境線で譲歩すれば、ロシア連邦そのものが動揺を始めて国家が分裂解体へ向かう危険性がある。ロシアにとって北方四島(南クリル諸島)の問題は、日本以上に政治的に深刻な意味を持つ問題なのかも知れない。スターリンの負の遺産としての未決着の戦後問題。

b0018539_1112261.jpg北方四島と同じ歴史的性格を持った問題の地域が西側、ロシアとヨーロッパの境界線上に幾つもある。その中で最も大きなものが、ベルロシアとウクライナに北と南を二分して割き取られている戦前の東ポーランド領だ。スターリンとヒトラーとの間の独ソ不可侵条約によってソ連領に併合され、ヤルタ会談で合意され、戦後も(北方四島とは違って)条約その他で国際法上合法化されているはずだが、ポーランドの国民感情としては原状回復の意志を捨てられないだろう。仮に今回、ウクライナが東西に分裂した場合、西ウクライナの中でその西部(旧ガリツィア地方)に住むカトリックのポーランド系住民が、やがてポーランドへの帰属を求めて分離運動を起こすという可能性も考えられる。これに関連して言えば、ウクライナの東西分裂などなくても、オレンジ革命の余波は間違いなくベルロシアに波及して、現体制を根幹から揺さぶる事態が現出するだろう。ベルロシアで二の舞がある。

b0018539_11163745.jpgベルロシアの現体制が転覆した場合、旧東ポーランド問題はさらにビジブルになる。スターリンが第二次大戦時に火事場泥棒的にソ連領化した土地は他にもあり、ソ・フィン戦争で奪取した旧フィンランド東部領土もそうだが、ウクライナ問題の並びで言えば、現在ウクライナ領となっている最西南端のルテニアは、第二次大戦前はチェコスロバキア領だった(下図参照)。住民のルテニア人の言語がロシア語の方言だったことと、この地域がチェコスロバキア・ハンガリー・ルーマニア三国と国境を接するソ連邦の防衛上の要衝だったことが理由だと思われる。仮にウクライナが東西に完全に分裂した場合、ルテニアは独特な立場になって民族的気運が高まる方向に向かうだろう。スロバキアにとっては原状回復の東方の地ということになり、厄介な民族問題がまた発生する。さらにルテニアと同じくソ連領ウクライナに併合された地域に北ブコビナがある。独ソ不可侵条約でベッサラビアと共にスターリンがルーマニアから削り取った。

b0018539_11162418.jpgウクライナの今度の大統領選挙が国際的な監視下で正規に行われれば、ユーシェンコの勝利は確実で、ウクライナの政治体制は一変する。果たしてプーチンはこれにどう対処するのか。一説では、米国は新ウクライナをEUには加盟させないがNATOに加盟させる案を考えていて、その線でプーチンに飲ませるらしい。ブッシュ政権にとっては、ウクライナは、イラク戦争をめぐって結束したロシアとEUを分断する絶好のカードでもある。プーチンがウクライナのNATO入りを飲めるかどうか。チェチェンのゲリラと泥沼の戦争を続けているロシア軍の士気にも関わる。ユーシェンコの民主化体制が固まれば、EUへの加盟は米国が認めなくても国民が推す。誰も止められない流れだ。ロシア寄りの反動派ヤヌコビッチの立場になって考えれば、ユーシェンコを毒殺するという手段を選んだ理由がよく分かる。もはや選挙妨害は誰にもできないだろうから、選挙後にプーチンがどう出るかだろう。放置すればベルロシアに火が飛び、モルドバが離れ、さらにロシア連邦内部の自治共和国にも火が点く。

b0018539_1448248.jpg

[PR]
by thessalonike | 2004-12-13 23:07 | 米大統領選考ほか(5)   INDEX  
<< 北朝鮮問題考(3) - 経済制... Indexに戻る 『世に倦む日日』 Blog S... >>