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北朝鮮問題考(5) - 対北朝鮮外交を動かす3つのベクトル
b0018539_1153165.jpgファナティックな制裁論ばかりが喧しい。アジア大洋州局北東アジア課の職員諸君は、一昨日の北朝鮮外務省の談話について各方面から情報収集して分析を加えているところだろう。当ブログの見解がお役に立てればありがたい。日本の北朝鮮外交については非常に複雑な力学構造の存在がある。それを動かしているエンジンは実体としては三つあり、簡単に言えば米国と外務省と右翼である。三者はそれぞれ異なる目的と利害を持って動いている。国内ではこの二年間、外務省と右翼が官邸権力の争奪戦を演じて激しく鬩ぎ合ったが、最終的に外務省が勝利した。中山恭子の罷免がそれを証明する出来事だった。小泉首相が外務省側について日朝国交正常化の名望の方を選択したのである。日本の首相は平均2年でコロコロ変わる。日本の外交に基本的責任を負っているのは外務省であり、国家のグランドオブジェクティブである日朝国交正常化と日露平和条約は、時々の政治家の恣意や思惑に委ねるわけにはいかない。



b0018539_114812.jpg田中均審議官は日朝交渉の表舞台から外されたが、ミスターXとの秘密交渉のパイプは実はまだ繋がっている。日本側がそれを切断しようとしても金正日がミスターXを対日外交の責任者として変更しない以上、日本側が一方的にチャンネルを変えることはできない。田中均審議官に代わってミスターXのカウンターパートになったのは山崎拓補佐官である。だから山崎拓の動向は最近のマスコミ報道では一切表面に浮上しない。山崎拓と北朝鮮との交渉は日本政府の極秘事項であり、右翼(救う会)に漏れないように完璧な情報統制を敷いているのだ。北東アジア課の職員でもそれを知り得ている人間は一人か二人だろう。山崎拓とミスターXは、日本の経済制裁の回避の可能性や、制裁発動のやむなきに至った場合の規模や中身や、その後の両政府の立ち回りのシナリオについて相談しているに違いない。二人の間、すなわち日朝両政府の間には、基本的に小泉政権任期中の日朝平和友好条約締結の合意の前提がある。

b0018539_11481443.jpg一方、右翼の側だが、救う会と安倍晋三らが考えているのは金正日政権の打倒であり、北朝鮮の体制崩壊による拉致問題の最終解決である。彼らはそもそも日本の戦後外交の基本線である日朝国交正常化の大義を認めていない。外務省職員でありながら安倍晋三の右腕になって活躍した斎木昭隆審議官も同じである。日本国憲法の存在意義自体を肯定しておらず、戦争による決着が国家にとって最善の方策だと信じている。安倍晋三と救う会は日本の経済制裁によって北朝鮮を挑発し、北朝鮮に何らかの軍事的モーションを起こさせようとしているのであり、例えば核実験なりミサイル発射実験なりへと誘導して、それを宣伝利用することで憲法改正と日本の核武装に繋げようとしているのである。北朝鮮の軍事的アクションは当然米国をも刺激するわけで、「悪の枢軸」の定理があり、日米安保条約がある以上、日朝戦争の前に米朝戦争が現出する。そこまで持って行って北朝鮮を体制崩壊させようというのが右翼側の外交戦略である。

b0018539_11483461.jpg米国はどうか。実はこれも完全な一枚岩とは言えないところがある。国務省の内部は日本の憲法改正に必ずしも積極的ではないだろう。が、ブッシュ政権は日本に早く改憲させて自衛隊に再編米軍の一翼を担わせようとしている。ブッシュ政権と国務省は一枚岩ではない。ブッシュ政権にとっては北朝鮮が日本を刺激して、日本の世論が改憲と核武装と日朝戦争に向かうのは歓迎なのだが、その前に米朝戦争の火中の栗を拾わされるのは御免なのである。なぜなら米国にとって北朝鮮は戦争する意味のない存在だから。北朝鮮と戦争をしても犠牲だけが出て何も利益がない。奪える資源がない。リスクだけ無闇に大きい。そして韓国と中国が体を張って戦争を阻止してくる。だから米軍が北朝鮮を軍事攻撃するという選択はブッシュ政権にはあり得ないのであり、北朝鮮は日本を改憲再軍備に導くための政治的な利用道具に過ぎない。だから六ヶ国協議体制をルーズに維持しているのであり、米国には他の選択肢はないのである。

b0018539_11484720.jpgさて、日本の今回の経済制裁に対しては、中国韓国が早速反対の意思を表明した。中韓二国だけでなく米国も反対の立場である。日本が経済制裁を発動すれば、北朝鮮は六ヵ国協議から日本の排除を要求して、会議開催を無期限に延期させ、六ヵ国協議体制は有名無実化する。北朝鮮の本意は米朝二国間直接交渉とそこでの体制保証の確約なのだから、六ヵ国協議が潰れても特に困ることは何もない。得意技の崖っぷち外交に戻って本領発揮するだけだ。そして米国務省は包括的支援の腹案を捨てていない。ミスターXと山崎拓の秘密交渉はその辺りの様相を睨みながら行われているはずであり、北朝鮮にとって日本の経済制裁は(軽いものなら)決して不利益ばかりとは言えないのだ。それはルーズな6ヵ国協議を破砕して一気に米朝交渉再開へ事態を展開させる呼び水となる。ミスターXと山崎拓が合意すれば、それは日朝両政府の秘密合意でもある。一年半内の国交正常化の基本線は崩さず、形式だけの経済制裁発動へ動く。
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by thessalonike | 2004-12-17 23:30 | 北朝鮮問題考 (10)   INDEX  
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