韓国映画『ブラザーフッド』(4) - 俳優たちの圧倒的な演技   
b0018539_032478.jpg映画『ブラザーフッド』を語るとき、どうしても言わなければならないことは、出演した俳優たちの演技の巧さである。溜息が出るほど素晴らしい。迫真の演技とはこの作品のキャストが観客に見せるものである。それはよく言われることで、特に日本の俳優たちとの比較で指摘されることだが、韓国映画界の俳優たちは明らかに演技の水準が高い。演技とか演技力についての概念がある。監督が作品の制作の中で求める人物、個性の内面や表情を物語の展開に応じて正しく表現、演出できる技能。韓国の俳優たちが確かに持っているのは、その演技という職業技術の意識と理解であると言える。日本の俳優、特に若い俳優にはそれがない。持ち前の未熟な個性でそのまま台本を読み上げればそれが演技だと持て囃されるのだ。



b0018539_033948.jpgレベルが違うと言う以前に、すでに俳優なり演技の概念の前提が根本的に異なってしまっている。意味理解が違う。世人にない高度な技能を持ったプロの集団であるべき職業俳優たちに対して、日本人はアートなスキルを求めようとせず、テレビタレントのお笑い芸と醜聞を求め、そして高い金を与えて甘やかしている。凡庸で驕慢だけが取り得の二世たちを貴族のように厚遇してお茶を濁している。才能も能力も努力も問われない出鱈目な芸能界。戦後日本社会のなれの果てを縮図化した異常で倒錯した世界。まともな感性の日本人が韓国のドラマや映画に靡くのは当然の話だ。先日、新しい日韓親善大使にチェ・ジウと木村佳乃が選ばれて並んだが、この二人の対照がまさに現在の韓国と日本の差を現わしているではないか。

b0018539_04756.jpg兄ジンテ役のチャン・ドンゴンと弟ジンソク役のウォンビンの演技が素晴らしい。この二人を兄弟役で抜擢した監督の慧眼も言わなければならないが、兄を兄らしく、弟を弟らしく、限りなく脚本に忠実に演技を見せ抜いた二人の俳優のパフォーマンスに心から感動を覚えさせられた。一回目に見たときはチャン・ドンゴンの圧倒的な演技に釘づけになり、これまでの韓国映画をはるかに超えた強烈な印象を受けた。二回目に見たときは、弟役のウォンビンの演技がそれ以上かも知れないことに気づかされた。ウォンビンの表情がどんどん変わって行くのである。可愛い高校生の子供の顔から精悍で屈強な兵士の顔にどんどん変わる。変えて行く。

b0018539_042011.jpgあの30年前の『ゴッドファーザー』のアル・パチーノの演技への評価を思い出した。映画が始まる前に、チャン・ドンゴンとウォンビンの二人が日本の観客に挨拶する短い映像が紹介されるが、特にウォンビンの方は、これがあの映画中盤から終盤の弟ジンソクとはとても思えない。ジャニーズの男の子の顔なのだ。ウォンビンもチャン・ドンゴンも、兄弟二人の個性をよく理解して、戦争が進む中での二人の人格の変容を十二分に演技で見せきっていた。戦争が人間をどう変えるのか、その非情と絶望をあますところなく見せ、しかしそれでも変わらない兄弟愛の美しさと気高さを強烈に演じ見せて、観客である我々を感動させてくれた。監督は二人の演技に満足だったに違いないが、いつか監督はいま以上に二人に感謝するに違いない。

b0018539_0344619.jpg我々から見れば、あの二人の演技はまさに奇跡と言うべきものだ。兄弟役の二人以外にも目を見張るものがあった。あの母親役の女性。パンフレットにも名前の紹介がない。熱病で言葉が不自由になったという設定のため、言葉を発せず、目と口の動きだけでモゴモゴと喉の奥から音を発して演技をする。大邱で二人の兄弟が無理やり軍隊に徴兵された時のあの母親の顔の変化と全身を使った仕草。あまりに印象的で忘れられない。まさに演技とはあれだ。その母親役とウォンビンのジンソクが目と顔の動きで会話を交わす場面も強く印象に残っている。優しさと気遣いに溢れた家族のコミュニケーションの姿。小さな部分だがこの映画の見どころの一つだ。それと、あの平壌市街戦でジンテを助けて死ぬ戦友のヨンマン役の俳優。

b0018539_035274.jpgヨンマンそのものが特殊な脇役で、彼の喋る言葉は他の俳優たちの韓国語と発音と雰囲気が一寸違う。譬えれば中国人が日本語を話しているような感覚。あれはきっと韓国社会の人間だけが分かる特殊な階層なり地域出身のキャラクター設定ではないのか。韓国人一般とのエスニシティの違いを感じる。原作を見ないと何とも言えないが、単に物語にコケティッシュなキャラクター要素を添えているだけでなく、配役に監督の特別な意図があるように感じた。そしてその特殊で微妙な役どころを、俳優は精密に演じていた。最後になるが、兄役のチャン・ドンゴンにも弟役のウォンビンにも感じるところだが、二人とも単に金銭(ビジネス)や出世(チャンス)のためだけでこの映画に出演しているのではないように私には思われてならない。

それらを超えたもっと大きなものがある。

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by thessalonike | 2004-09-03 23:30 | 『ブラザーフッド』 (6)   INDEX  
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