人気ブログランキング | 話題のタグを見る

本と映画と政治の批評
by thessalonike

access countベキコ
since 2004.9.1



日本の右傾化と国際的孤立 - 靖国オルタナティブの消滅
日本の右傾化と国際的孤立 - 靖国オルタナティブの消滅_b0018539_17292753.jpg反日デモの陰に中国政府・英紙が指摘

11日付の英紙タイムズは社説で、中国の過激な反日行動について「明らかに中国政府の暗黙の奨励に基づいて行われている」と指摘した。その上で「日本の世論はもはや中国に対して、それほど卑屈ではない」と強調。反日行動の過激化を許せば日中の経済関係が脅かされるなどとして「最終的には中国が敗者になるということを中国政府の指導者は理解しなければならない」と主張した。一方で小泉純一郎首相に対しては、教科書検定をめぐる日中両国の緊張関係を終わらせることや、靖国神社参拝以外による戦没者の追悼方法を見いだすことで、「真の改革者」であることを証明するよう求めた。

【ロンドン=共同】 (4/11 11:22)




日本の右傾化と国際的孤立 - 靖国オルタナティブの消滅_b0018539_1729418.jpgこのタイムズ紙の社説は当を得ている部分もあるが、今回の中国の反日デモの根本原因に触れてないところに限界を感じる。英国から見れば、このように日本の方が中国に対して卑屈であるように見えるのだろうか。中国や韓国からすれば、現在の日本は、あの石原都知事の言動や態度に典型的なように、あまりに倨傲で独善的であり、常識と節度と理性を欠き、誤った方向に国家を暴走させているように見えるはずだ。上のタイムズの記事の後半部分は妥当な指摘だと思うが、靖国参拝以外の戦没者追悼方法を探そうとせず、教科書検定問題で真の解決を見出すことのできない日本の政治にこそ本質的な問題があるのであって、この二つの問題こそが決定的な鍵なのだ。それは枝葉末節の問題ではない。小泉首相がタイムズの期待する政治的リーダーシップを持った人格ではないことは、日本人なら政治的立場の左右を超えて誰でも簡単に理解できる。

日本の右傾化と国際的孤立 - 靖国オルタナティブの消滅_b0018539_1730214.jpg靖国神社に代わる新しい国立戦没者慰霊施設については、野中広務が官房長官を務めていた橋本政権の時代には、まだリアリティを持って政治の世界で論じられていたが、その後、小泉首相の8・13参拝強行を経て、予算化の見送りが当然となったまま、自民党の中で議論が萎み、今ではそれを声高に言う人間は誰もいなくなった。民主党の左派でも新施設建立を政策として唱えている者はいないのではないか。そして最初は小泉首相の靖国参拝に強烈に反発していた中国も、次第に日本の右傾化の状況の中で外交的に妥協を余儀なくされ、A級戦犯の合祀を外すのなら目を瞑ってもよいという姿勢に変わって行く。ODAとの関連があったのだろうか。小泉政権時代は名を捨てて実を取り、日本の政治の風向きが変わるのを待とうとしたのだろう。韓国の方は中国よりもさらに日本に宥和的で、首相の靖国参拝には政府として何も言わないという放置黙認の時代が長く続いた。

日本の右傾化と国際的孤立 - 靖国オルタナティブの消滅_b0018539_17301187.jpg四年前に小泉首相の靖国参拝強行事件が起きたとき、奇しくも扶桑社の歴史教科書の採択をめぐって全国の自治体の教育委員会が大騒ぎになった事件が同時にあったが、野中広務が久米宏のニュースステーションに出演して、靖国神社は戦前の軍国主義の精神的支柱であり、そこに日本の首相が参拝をするのは問題外の違憲行為であると厳しく指摘した一幕があった。ステイツマン野中広務の断固たる正論は、当時のわれわれの気分を少し安堵させてくれたが、わずか三年で野中広務は政界から引退、正論を継承してくれる政治家の影は完全に消えた。永田町にはもう誰もいない。われわれが期待を託す最後の望みは天皇陛下の護憲主義と平和主義だけになった。七年前には自分は最後まで憲法を守ると言っていた田原総一朗は、今では石原慎太郎と安倍晋三に毎週末に演説をさせて、一週間毎に国民を一歩右に寄らせるプロパガンダ・シャワーの散布責任者になっている。

日本の右傾化と国際的孤立 - 靖国オルタナティブの消滅_b0018539_17302149.jpgテレビの政治番組はどれも右翼プロパガンダのショーステージばかりで、韓国や中国の立場や警告に内在する論者は一人もレギュラー出演することがない。三年前からの北朝鮮拉致問題報道がそれに拍車をかけた。石原慎太郎や安倍晋三の路線に靡かない人間はマスコミでメシを食えないだろう。そういう言論環境下でネットの中が右翼ファナティシズム一色に染まるのも、考えてみれば無理はないと言える。報道のスタンスもこうして何かが起きる度に右傾化し、恰も「鬼畜中韓」を言っているようであり、狼狽を覚えてしまう。成熟社会であるはずの日本が現実にこれほどファナティックな政治世界に化けるとは思わなかった。十日後の22日からはアジア・アフリカ会議がインドネシアで開催される。これも節目の50周年。中韓の首脳が何を言うだろうか。そのメッセージは日本国民の心には届かないかも知れないが、きっと戦争被害国であるアジア諸国の人々にはリーチするものになるだろう。

日本の右傾化と国際的孤立 - 靖国オルタナティブの消滅_b0018539_17303679.jpg

by thessalonike | 2005-04-18 23:30 | 靖国問題 (10)   INDEX  
<< 日本の欺瞞 - 「何度も謝罪し... Indexに戻る 中国における対日重視 - 王毅... >>