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江沢民の政治 - ギャンブルとしての反日デモ
b0018539_10541565.jpg上海市政府の焦揚報道官は現代中国の顔として印象的な一人である。焦揚女史は先週13日の記者会見で、「上海市政府は日本人を含むあらゆる外国人と外国企業の安全を維持する能力を持ち合わせている」と強調、15日の談話ではさらに無許可デモを禁止して、違法行為については法的責任を追及する旨を言明した。この二つの報道で現地の日本人社会も国内のわれわれも上海の治安情勢を楽観視していたのだが、蓋を開けてみれば、暴徒は先週の北京を上回る規模で領事館と日系商店に被害を与え、また上海市の公安警察は、先週の北京の映像を再現するかのように暴徒の破壊行動を制止せず、目の前での領事館への投石を自由に放任していた。上海市政府と公安当局の日本人社会への裏切りであり、進出している企業関係者の衝撃と動揺は甚だしいものがある。焦揚報道官は16日夜、反日デモについての談話を発表、「日本が侵略の歴史などの問題について間違った態度を取ったことが、人民の不満を招いた」と日本側を批判した。



b0018539_10542989.jpg人気者の焦揚報道官に内在して言えば、彼女は先週15日までの時点では、週末の反日デモがあのような騒乱の事態になるとは想像もしていなかったのに違いない。本人の内面の良心において16日のオフィシャルコメントは不本意なものであり、週明けに顔馴染みの日本のプレスの面々の前に立つのは憂鬱な気分であるだろう。政治としての上海反日デモを深読みすれば、それを事前にシミュレーションしていたのは党の幹部と公安警察のラインであり、市政府には直前まで情報が秘せられていた可能性も考えられる。北京での日本大使館への投石に続いて、上海での日本領事館への投石の始終まで日本の報道陣に自由に撮影させているのは、この騒乱を企画した党幹部が、中国の断固たる決意を日本国民に映像としてアピールしているとしか考えられない。日本国民のみならず、全世界に向けて、中国の日本に対する怒りの強さをコンビンスさせるべく、国際政治のギャンブルに出ているように看て取れる。党内でも反対意見は出ただろう。

b0018539_10544228.jpgこれを江沢民の政治的ギャンブルとして見たとき、直ちに想起するのは、89年の天安門事件における鄧小平の断固たる武力鎮圧の一幕である。あのときも党内では意見が分かれた。鄧小平は学生との融和に出た趙紫陽を斬り、死者数百名と言われる恐怖の弾圧で一気に鎮圧平定した。天安門事件は悲惨な流血事件として現代史に残ったが、鄧小平の偉人としての名を落としめるものとはならず、中国の改革開放と経済成長には何の支障も与えることなく、それからわずか十年で中国は経済大国に躍進した。香港返還も実現した。今では、あのときの鄧小平の決断こそが中国を成功に導いたという評価が高い。その評価の是非はともかく、鄧小平でなければ民主化運動の武力鎮圧は決断できなかっただろうし、鄧小平だったからこそ中国の民衆もその政治に承服したと言うことができる。江沢民は鄧小平に抜擢された男であり、そもそものキャリアは電気技師であり、胡耀邦と趙紫陽が相次いで失脚したがために浮上して鄧小平の後継者に就いた男である。

b0018539_10575853.jpg鄧小平の政治を継承するという理念は、江沢民において誰よりも強固だろうし、豊臣秀吉が常に織田信長ならどうしただろうと思いながら政治の舵を執ったように、江沢民は鄧小平ならどうしただろうと思い、党と政府を指導している筈である。鄧小平は自らの改革開放路線をギャンブルに賭けて学生の民主化運動を鎮圧した。日本を含めて当時の外国の報道機関は、中国の文革時代への逆行を言い、改革開放の頓挫を言った。外国の企業と資本が大陸から撤退するだろうという予想が多かった。が、その後の結果は全く逆となり、中国は経済大国の成功を掴んでいる。江沢民はそれを見ているのに違いない。ここから先は想像だが、江沢民が90年代の朱鎔基との熾烈な政治闘争に勝ち残れたのは、党の上層部に生き残っていた老齢の革命世代(オールドボリシェヴィキ)の心情的支持の調達が大きかったのではないかと思われる。宰相としての国家の経営能力を純粋に比較すれば、朱鎔基の方が江沢民よりも器量が上であるのは判然としている。

b0018539_1055194.jpgだが、イデオロギーの面で、中国革命の闘士であり抗日戦争の将軍であった鄧小平の思想を継承するという面から見れば、革命世代の生存幹部たちは、朱鎔基よりも江沢民の方に匙を加減したに違いない。98年に江沢民が来日したとき、江沢民が宮中晩餐会の席に突如として人民服姿で現れ、天皇陛下の前で日本軍国主義を批判した一件があった。あの事件なども、こうした政治的視点を挿入すれば解読が可能なように思われる。後継者として据えた胡錦涛に、昨年のチリのAPECでの日中首脳会談で靖国参拝を批判させたのも、江沢民が胡錦涛をテストしているように見える。単なる実務家では駄目なのだ。昨夜の日中外相会談の絵を見てもそうだった。存在感の薄い李肇星があれほど真剣な表情を見せたのは初めてである。鄧小平に忠実たらんとする江沢民のギャンブルがどう出るか。北京大使館に続く上海領事館への投石は、日本の国民感情を決定的に傷つけた。映像は繰り返し流される。映像が流される度に日本国民の対中感情は悪化する。

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by thessalonike | 2005-04-21 23:30 | 中国の反日デモ (10)   INDEX  
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