靖国神社の性格づけをめぐる朝日記事と高橋哲哉の『靖国問題』
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b0018539_11165346.jpg上は4月27日の朝日新聞一面に載っていた世論調査記事で、当日のテレビ朝日の報道ステーションでも紹介された。紙面では、特にこの「靖国神社はどんな存在か」という質問への回答結果がグラフで表示され、日中韓三ヶ国間での靖国神社に対する認識の相違が強調される報道になっていたが、朝日新聞はこの相違の事実のみを数字で伝えているだけで、解説は加えられておらず、また夜の番組報道の中でも加藤千洋からは何のコメントも発せられなかった。この結果についても正直なところ慄然とするが、朝日新聞のこの問題に関する調査と報道の姿勢についても、訝しく不可解な感覚を禁じ得ない。朝日新聞はこの調査結果に対して解説を加えないことで、日本人の多数が靖国神社を「戦死者を追悼する所」であると認識しているという「客観的事実」を積極的に追認しているように見える。調査の意図なり動機として、日中韓三国間の認識のズレを際立たせることのみに関心が向いていて、数字が示す日本国内の政治意識や歴史認識の異常さについて注意が向けられていない。数値結果以上に朝日新聞の報道姿勢の方に危惧を感じる。

b0018539_11291021.jpg一昔前ならば、十五年前ならば、もし世論調査でこのような結果が出たなら、久米宏も小林一喜もこれを簡単に見逃しはしなかっただろうし、朝日新聞そのものが、この結果を日本の右傾化を示す深刻な現実として捉え、ジャーナリズムの観点から警鐘を鳴らす解説報道をしただろう。靖国神社が「軍国主義の象徴」なのか「戦死者を追悼する所」なのかは決定的な問題であり、歴史認識の立場を分かつ象徴的で根本的な問題である。この場合、靖国神社が「戦死者を追悼する所」というのは嘘であり錯覚である。靖国神社は戦争で死んだ兵士を顕彰する場所であり、戦死者を追悼する場所ではない。追悼顕彰とは違う。「戦死者を追悼する所」という定義に該当する施設は千鳥が淵の戦没者墓苑である。靖国神社ではない。この点は、高橋哲哉のちくま新書『靖国問題』にも書かれているとおりで、戦死兵士の顕彰神社である靖国を戦死者の追悼施設であるかのように偽装して言う小泉政権と右翼の言説は、自己欺瞞を含む悪質なプロパガンダである。

b0018539_11482626.jpg決して追悼などしていないし、するつもりもないし、させるつもりもないのだ。靖国神社は、天皇の戦争に出征して戦死した皇軍兵士を国家が賛美し、その名誉を称揚することによって遺族が癒しと意味を感得し、戦争の悲劇を国家への貢献として積極的に意味づけする場所である。高橋哲哉は「感情の錬金術」という表現を使って、このイデオロギーのメカニズムを説得的に表現しているが、まさに遺族の内面で観念倒錯を起こさせることで、侵略戦争に従軍した兵士の戦死が浄化聖化され、靖国の被害者である遺族が逆に靖国を強固に正当化する宗教的前衛になるのである。客観的に見れば、それは国家神道という全体主義的な宗教教義に騙されていることになるのだが、顕彰のイデオロギーを肯定的に意味受容して内面化した遺族は、靖国のマインドコントロールから簡単に離脱できない。靖国を否定すれば、親族の名誉ある出征と戦死が不名誉な侵略戦争での無駄死に意味転落してしまうからだ。それを認めることは大きな内面の苦痛を伴う。

b0018539_113789.jpg右翼が「自虐史観教育」と呼んで卑蔑罵倒している戦後民主主義の教育は、侵略戦争の歴史を反省して平和を愛する日本国民を育てるものであり、当然、教室では靖国神社は「軍国主義の精神的支柱」として教えられてきた筈である。その認識が真実であり、靖国神社はそのように定義する以外になく、そう教育されなければおかしい。朝日新聞の今回の結果は、それが確かな事実であるとすれば、日本人一般の意識が戦後教育から遠く離れ、90年代以降の右翼国家主義による歴史修正主義で再教育され、ほぼ完全に洗脳されてしまったことを意味する。藤岡信勝や西尾幹二の偉大なプロジェクトが成功し、日本人の政治意識が改造され、日本人が戦後民主主義の思想を否定し放棄した事実を物語る。現時点で靖国神社を「戦死者を追悼する所」と観念している日本人は、いずれこの欺瞞的で曖昧なイデオロギー的中間点から一歩前へ出て、積極的に「戦死兵士を顕彰する所」という本来の定義を発見し、靖国の本来の姿を本来の言葉で言うようになるだろう。
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by thessalonike | 2005-04-28 23:42 | 靖国問題 (10)   INDEX  
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