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本と映画と政治の批評
by thessalonike

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黒木瞳主演ドラマ 『二十四の瞳』 - 渡辺恒雄晩節の「反靖国」
黒木瞳主演ドラマ 『二十四の瞳』 - 渡辺恒雄晩節の「反靖国」_b0018539_1250333.jpg終戦記念特別ドラマ『二十四の瞳』を見た。主演の黒木瞳はいつ見ても魅力的な女優だが、昨夜の番組でもひときわ輝いていた。日本の女であれば誰でも黒木瞳のようになりたいと思う。いい時にいい仕事に恵まれてよかった。日本を代表する女優は何人かいて、私の場合は宮沢りえと黒木瞳と仲間由紀恵の三人に指を折るが、母であり妻である四十四歳の黒木瞳は三人の中では別格の存在と言える。二十代から四十代を演じたところが見どころだと本人も言っていたが、まさにそのとおりで、いい感じで演じ分けていた。新任の大石先生はどこまでも若く可愛いのである。メイクと笑顔の表情でそれを作っているのだが、黒木瞳の笑顔が溌剌として若さに溢れている。後で映像を見て本人も満足だったに違いない。自信を持って自分の二十代の演技を見てくれと宣伝していた。由美かおるも立派で、日本の女に夢と希望を与え続けるが、黒木瞳も同じである。あと十年経っても若々しい二十代の女を演じられるのではないか。



黒木瞳主演ドラマ 『二十四の瞳』 - 渡辺恒雄晩節の「反靖国」_b0018539_1250158.jpgこの十年間とか十五年間とか、日本の政治や経済は悪いことばかりで、意気消沈することばかり多いけれど、何か唯一希望の灯りのように感じることは、女がいつまでも若い姿を見せて人に夢を与えていることであり、その方面での女たちの果敢な挑戦と達成が続いていることである。ピンクレディーとか、多岐川由美とか。平和憲法と高度成長の戦後神話を作って世界から尊敬されている日本人も偉大だが、現在の「年をとっても女が美しく生きられる大国」としての日本も立派と言える。この社会的達成は経済学や社会政策の関心の対象にはならないかも知れないが、文化現象として情報伝達されて注目を浴び、やはり世界の先進モデルとして評価されることになるだろう。高齢の女が美しく輝いている国ほど間違いなくいい国だ。不倫のイメージが強い黒木瞳だが、昨夜の番組は、黒木瞳が努力と挑戦の女優であり、不断に自己を磨き高めている女であることをあらためて感じさせられた。だからいい仕事が届く。

黒木瞳主演ドラマ 『二十四の瞳』 - 渡辺恒雄晩節の「反靖国」_b0018539_1251769.jpg白いブラウスとモダンクラシックなグレーのスーツ姿が、昭和初期の小豆島の田舎の風景をバックにして、黒木瞳の若々しい姿をよく映し出していた。製作側は黒木瞳の魅力と子供たちの可愛らしさを前面に押し出してドラマの映像を作っていたが、やはり原作の主題であるところの大事な反戦のメッセージはきちんと織り込まれていて、特に夫が戦死して遺骨になって帰ってきたときの場面が印象的だった。白木の箱を抱えた黒木瞳の前を二人の息子兄弟が歩いているときに、悲しみで泣き出す弟を軍国少年の兄が「お国のために名誉の戦死をしたのだから泣いてはいけない」と言って叱りつける。それを黒木瞳が怒って「名誉の戦死なんてない。お前は靖国の妻になった私を今度は靖国の母にする気なのか。こんなときに泣かなくて一体いつ泣くの。人が見ていても構わないから泣きなさい」と怒鳴るシーンがあった。このドラマの一つのクライマックスで、キーのメッセージがダイレクトに視聴者に訴えられる重要な場面。

黒木瞳主演ドラマ 『二十四の瞳』 - 渡辺恒雄晩節の「反靖国」_b0018539_1331899.jpg黒木瞳の口から「靖国」という単語が飛び出してきたので、何か一瞬ドキッとしてしまった。『二十四の瞳』の大石先生は反戦の人で、原作の基調が反戦平和主義で一貫していることは十分承知しているものの、二十年前ではなく現在のような右傾化の極みにある時代に、テレビのドラマでインパクトにある反戦のメッセージが出てくると何か落ち着かない感じがする。ドラマの製作スタッフや黒木瞳に右翼から嫌がらせが来ないだろうかと心配な気分になるのである。物語の中で小学校の仲間の教師が、黒木瞳の大石先生に「軍人さんが嫌いとは何事ですか、こんなご時世に」と言う場面が出てくる。「こんなご時世」。そう、まさに今は「こんなご時世」に成り果ててしまった。『二十四の瞳』が何度もテレビでドラマ化されて放送されていた昔は「こんなご時世」ではなかった。「靖国」の台詞にビクビクしなければいけないご時世ではなかった。戦後民主主義の思想が確実に社会を支配していた時代だった。今は違う。

黒木瞳主演ドラマ 『二十四の瞳』 - 渡辺恒雄晩節の「反靖国」_b0018539_12511730.jpgこんなご時世に『二十四の瞳』を見せてくれた日本テレビのスタッフと黒木瞳に感謝したい。黒木瞳に憧れている現代の日本の女たちは、黒木瞳の迫真の台詞に耳を済ませ、日本軍国主義の真髄たる靖国イデオロギーについて考える頭を持って欲しい。近所の書店に立ち寄ったら、ある月刊誌に渡辺恒雄が『私は靖国には行かない』という題名の論文(あるいはインタビュー)を発表していた。表紙だけ見て中身は捲っておらず、雑誌の名前も覚えていないのだが、日本テレビは『二十四の瞳』に続いて今週の金曜ロードショーで『火蛍るの墓』も放送する。6月初めに中曽根康弘が小泉首相の靖国参拝中止を求めて立ったとき、それに合わせて読売新聞が首相の靖国参拝中止と国立追悼施設建立を社説で訴えた事件があった。今年の渡辺恒雄はその辺で何か期すものがあるのだろうか。渡辺恒雄の世代ならば、そして渡辺恒雄の知性ならば、今の日本がどういう時代になっているかは容易に分かる問題である。日本国民の幸福のために晩節を美しく処して欲しい。
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by thessalonike | 2005-08-03 23:31 | 靖国問題 (10)   INDEX  
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