カテゴリ:東京裁判 ・ 南京事件 (10)( 10 )
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「平和に対する罪」 の法理を欠けば真実の解明は不可能だった
b0018539_12193724.jpg講談社刊の『東京裁判』上下巻をほぼ読み終わったところで感想を書き述べるが、やはり東京裁判と南京大虐殺の二つが密接不可分な関係の問題であることをあらためて痛切に考えさせられる。今回、森岡問題が起きた際に中国外交部の孔泉報道官が東京裁判の歴史的意義について若干触れ、その中で絞首刑七名の殆どが中国への侵略戦争の責任を問われたA級戦犯であった点が強調されていたのだが、なるほど確かにそのとおりであり、中国政府にとって東京裁判の意味がきわめて重大である理由がよく分かる。死刑判決を受けた戦犯七名の中で日中戦争に関係なかった者は一人もいない。軍人ではない文官の広田弘毅が異例の極刑に処せられたのも、南京大虐殺事件の当時の外相でありながら、大虐殺の報告を受けつつ、それを制止する措置を怠った不作為の責任が問われたことによる。松井石根と広田弘毅の死刑は、まさに南京大虐殺の責任を取らされたものであった。

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by thessalonike | 2005-06-02 23:30 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
東京裁判被告人の保身と矮小 - 『軍国支配者の精神形態』
b0018539_1714021.jpg東京裁判は日本の侵略戦争の真実を明らかにした裁判である。歴史はこのように短期にプロジェクトのワークによって一気に真実が暴き出される瞬間がある。言わば革命的な歴史の生産である。右翼が言うように、東京裁判は戦後日本の現代史認識に決定的な影響を与えたが、他方で侵略戦争の真実の全体像から昭和天皇の姿を隠したため、きわめて曖昧で不完全な「真実」が描き出される結果となった。話をジグソーパズルに喩えるのは、あまりに天皇の存在の過小評価になるが、現人神であり統帥権者であった昭和天皇のピースを欠落させて仕上がった昭和史の「真実」の絵は、たとえ何千ページ何万ページの証言記録や証拠文書で真実性が担保されたものであっても、所詮は何やら嘘臭い政治的虚像のように観念されてしまう。戦争犯罪の刑事責任を個人に適用するのだと宣言し、その法的根拠や普遍的合理性について渾身の熱弁を振るうウェッブやキーナンの姿を思い描きながら、それならどうして最も責任を問われなければならない個人が最初から訴追を免除されているのだと歯痒い思いがするのである。

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by thessalonike | 2005-06-01 23:30 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
三位一体 - 東京裁判、南京大虐殺、昭和天皇の戦争責任
b0018539_16472779.jpg東京裁判』上下巻(朝日新聞東京裁判記者団著)は、実は今から20年以上前の1983年に、講談社から出版と同時に購入していたのだが、これまで一度も頁を開くことなく書棚に封印したままだった。森岡発言の事件があり、東京裁判について何事か考えてみようという気分になり、今回初めて本を繙く機会を得た。蒙を恥じるばかりだが、本を買ったのは、このときドキュメンタリー映画の『東京裁判』(小林正樹)が製作、封切されて話題になっていたからである。当時を反省して振り返れば、東京裁判にしても南京大虐殺にしても、特に複雑な歴史世界に踏み込んで研究しようという知的欲求や問題意識は持っていなかった。それはすでに整理がついた現代史の問題であり、殊更に詳細にその周辺の知識をストックしたり、豊かなイメージを保有する必要を感じなかったのである。年齢も若く、もっと他の世界に知的関心が向いていた。それは掘り下げて考えてみれば、戦後民主主義の幸福な太平洋高気圧の下で、私自身と日本人が平穏に生活していた状況を意味する。

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by thessalonike | 2005-05-30 23:30 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
東京裁判の有効性を担保する二つの法理 - ポ宣言と通例犯罪
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森岡正宏厚生労働政務官は26日の自民党代議士会で、小泉首相の靖国神社参拝問題に関連し、「中国に気遣いして、A級戦犯がいかにも悪い存在だという処理をされている。A級戦犯、BC級戦犯いずれも極東国際軍事裁判(東京裁判)で決められた。平和、人道に対する罪など、勝手に占領軍がこしらえた一方的な裁判だ。戦争は一つの政治形態で、国際法のルールにのっとったものだ。国会では全会一致で、A級戦犯の遺族に年金をもらっていただいている。国内では罪人ではない。靖国神社にA級戦犯が祭られているのが悪いように言うのは、後世に禍根を残す」などと発言、参拝取りやめを求める中国などを批判した。この発言について、細田官房長官は同日午後の記者会見で、「政府の一員として話したということはあり得ない」と述べた。その上で「事実関係には種々誤りも含まれ、論評する必要はない。(東京裁判の結果については)日本として受諾したという事実がある」と指摘した。  (26日 読売)


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by thessalonike | 2005-05-27 23:30 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
日中戦争の歴史認識(6) - 日本軍にとって都合のいい「実証」
b0018539_11411765.jpg秦郁彦の『南京事件』を読みながら、読者が何か不自然な感想を抱くのは、秦郁彦が日本軍の蛮行を非難しながら、一方で何故それが起きたのかを探る原因分析の中で、日本軍の虐殺行為を現場の状況として不可避的のものだったように描き、結果的に日本兵の虐殺や強姦を免責する筆致になっていることである。状況的に仕方のない事件だったという論調になっていて、虐殺を実行した者たちの加害責任を追及する視角になっていない。例えば捕虜収容の方針と対策の欠如とか、日本軍そのものの補給の不備とか、軍のシステム上の欠陥のように原因説明がされていて、そうした組織上の条件が整備されていれば虐殺事件は発生しなかったかのような見方が示されている。こういう書き方は欺瞞であろう。日本軍は最初から中国兵は全て殺害する方針で侵略戦争に臨んでいるのであり、兵士のみならず住民も全て虐殺と略奪と強姦の対象なのである。虐殺はシステムの欠陥による偶然の事故などではなく、本来的なものであり、この侵略戦争の性格に本質的に根ざしたものだった筈だ。

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by thessalonike | 2005-05-20 23:06 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
日中戦争の歴史認識(5) - 秦郁彦の方法的欠陥と自己矛盾
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それでも中国側が従来から主張している三○万-四○万の数字とのへだたりは大きい。(略)また数字の根拠を当ると、数少ない生存者の記憶による証言がほとんどで、故意にふくらませたとも思えず、被害者心理にありがちの誇張に由来するもの、と見当がつく。(南京市文史資料)研究会の方もカットする具体的根拠がないので、そのまま採用したのであろう。(P.214) 人口統計もしっかりしてないうえ、「白髪三千丈」の伝統を持つ中国のことだ。悪意はなくとも、数字がふくれあがるのはやむをえまい。(P.205) 悪意はなくとも「白髪三千丈」式にふくれあがったまま現在に至っている。(P.207) 従来の研究書には、被害者である中国側の証言や主張を軸に組み立てたものが多く、全体像が見えにくくなる傾向があった。そこで、本書では加害者である日本側の戦闘詳報や参戦者の日誌など、いわゆる第一次史料を軸として構成し、日本側でも後になって書かれたり語られたいわゆる第二次史料は、原則として補足、参考の範囲で利用するにとどめた。(P.243 秦郁彦 『南京事件』)


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by thessalonike | 2005-05-19 23:15 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
日中戦争の歴史認識(4) - 南京大虐殺の犠牲者の数について
b0018539_21361587.jpg南京大虐殺の歴史は犠牲者の数が本質的な問題ではないと思うが、一般にブログや掲示板で四万人説を主張する者がその論拠とする秦郁彦の『南京事件』を一読したかぎりでも、どうやら本当の数はもっと多かったのではないかという印象を自然に持つ。秦郁彦自身が「筆者が約四万人と概算した被害者数も、積み上げ推計に基づいているだけに、新資料の出現で動くことになるかも知れず、あくまで中間的な数字にすぎない」と語っており、また積算方法そのものが読者をよく納得させられるものではないからだ。相当な計算除外がある。秦郁彦の四万人説の内訳は、住民虐殺が一万人で捕虜虐殺が三万人である。これはスマイス調査をベースにした推計なのだが、そのスマイス調査の中身については、信頼性の検証も含めて、本書の中で特に詳しく紹介されていない。犠牲者の数の問題で引っ掛かりを覚える点の一つが埋葬死体数十五万五千体という数字(P.212)であり、これは紅卍字会および崇善堂という民間慈善団体による記録であるが、埋葬死体数だけでも秦郁彦の数字の四倍に上る。

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by thessalonike | 2005-05-18 23:19 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
日中戦争の歴史認識(3) - 秦郁彦『南京事件』の「あとがき」
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日本が満州事変いらい十数年にわたって中国を侵略し、南京事件をふくめ中国国民に多大の苦痛と損害を与えたのは、厳たる歴史的事実である。それにもかかわらず、中国は第二次大戦終結後、百万を越える敗戦の日本兵と在留邦人にあえて報復せず、故国への引きあげを許した。昭和四十七年の日中国交回復に際し、日本側が予期していた賠償も要求しなかった。当時を知る日本人なら、この二つの負い目を決して忘れていないはずである。それを失念してか、第一次史料を改竄してまで、「南京大虐殺はなかった」といい張り、中国政府が堅持する「三十万人」や「四十万人」という象徴的数字をあげつらう心ない人々がいる。もしアメリカの反日団体が日本の教科書に出ている原爆の死者数が「多すぎる」とか、「まぼろし」だとキャンペーンを始めたら、被害者はどう感じるだろうか。数字の幅に諸論があるとはいえ、南京で日本軍による大量の「虐殺」と各種の非行事件が起きたことは動かせぬ事実であり、筆者も同じ日本人の一人として、中国国民に心からお詫びしたい。この認識なしに、今後の日中友好はありえない、と確信する。 (P.244)


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by thessalonike | 2005-05-17 23:38 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
日中戦争の歴史認識(2) - 物語にならない厭辱の侵略戦争
b0018539_13404224.jpg「日中戦争に関しては、新事実の発掘や新視角からの研究の深化が今日も続いている。しかし、太平洋戦争については、批判・擁護いずれの立場をとるにせよ、その位置づけが明らかになりつつあるが、日中戦争の全体像への言及は、いまだに十分とはいえない」。 これは中公新書『新版日中戦争』(臼井勝美著)の新刊案内キャッチコピーだが、同感である。日中戦争についての全体像が未だ一般的になっていないという点は事実であるように思われる。学界と論壇では、南京大虐殺の犠牲者数の数の問題にばかり関心と争点が集中していて、日中戦争全体の概念や表象がわれわれの中で曖昧である。歴史教科書の中でも、大きく取り上げられるのは盧溝橋事件だけで、その後の戦争の経過については詳述されず、戦線の南への拡大と泥沼化の状況だけで記述が切り上げられている。確かに泥沼化は泥沼化だろうが、戦争は八年間継続されているのである。日本人の中の日中戦争は、太平洋戦争開始への助走路的な位置づけにあり、日中戦争の中盤から終盤が歴史像として明確に認識されていない。

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by thessalonike | 2005-05-16 23:30 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
日中戦争の歴史認識(1)  - 祖国は司馬遷の国たるを思え
b0018539_9465076.jpg中国が、政府だけでなく国民一般も含めて、これほど強烈に小泉首相の靖国参拝に反発しているのは何故だろうか。日本のマスコミは、東シナ海のガス田開発問題や国連常任理事国入りの問題や、いくつかの問題を取り上げ、「何故この時期に」などという瑣末で皮相的な問題の立て方で視聴者に説明し理解させている。まるで偶然が重なったアクシデントのような捉え方と見せ方であり、また右翼たちは、中国内部の矛盾や混乱の方に関心を向けさせ、恰も反日デモの原因が中国国内に存在するかのようなプロパガンダを繰り返している。中国側が批判しているところの日本の軍国主義の復活という問題に真摯に目を向ける議論は日本国内では殆どない。中国が靖国に反発するのは、それが日本の軍国主義の象徴だからであり、靖国参拝は国家神道と日本の軍国主義の正当化行為であり、憲法の平和主義の原則を否定する行動なのである。だから中国のみならず韓国も憤慨する。シンガポールも警戒する。日本に対する反発の理由は同じなのだ。

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by thessalonike | 2005-05-12 23:07 | 東京裁判 ・ 南京事件 (10)   INDEX  
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