<   2004年 09月 ( 35 )   > この月の画像一覧
  INDEX  
村上春樹『アフターダーク』 (2) - 登場人物の内面の浅さ
b0018539_2125297.jpg小説『アフターダーク』に物足りなさを覚えるもう一つの理由は、登場する人物にいつものような内面的な深みが欠けている点である。村上作品に特有の、主人公によるあの味わい深い省察と諦観がない。あるいは、準主人公の口を通して語られる時代への批判や主張の契機が弱い。だから『アフターダーク』の中では読者がストレートに感情移入できる人物が存在しないのだ。わずかに高橋の個性と言葉の中にいつもの村上作品の登場人物の香りを嗅ぐ程度だろうか。浅くて弱い。この点は読みながら読者が感じる違和感であり、読み終わって残るストレスと不足感だろう。本来の村上作品なら、その部分がもっと濃厚でインパクトがあるはずなのだ。

More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-30 23:30 | 『アフターダーク』 (8)   INDEX  
韓国映画『スキャンダル』(4) - 李朝文化ルネサンスの予感
b0018539_95615.jpg映画の中で主人公のチョ・ウォンが美人画や風景画を描いているシーンが屡々登場する。文武両道の風雅な貴公子チョ・ウォンは、ある意味で男子の生き方の理想像を示している。私はこの李朝時代の書画の文化について以前から関心を持っていて、どこかで知識を本源的蓄積する機会はないものかと右往左往しているのだが、今までのところ、残念ながらその機会を得ていない。ブログをご覧の方で助言があればぜひお願いしたい。十五年ほど前に、ETVの日曜美術館でソウルの国立中央博物館が紹介されたことがあった。NHKのスタジオで加賀美幸子アナと向き合った館長が実に立派な知識人で、その頃の一般の日本人からは聞かれなくなった美しい知的な日本語で解説されていたのが印象的だった。当時の国立博物館は、あのドームが特徴的な旧朝鮮総督府の建物で、それは1995年から96年にかけての撤去工事によって解体された。

More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-30 23:30 | 『スキャンダル』 (4)   INDEX  
村上春樹『アフターダーク』 (3) - その意図と隠喩    
b0018539_2155020.jpg『アフターダーク』の物足りなさについて言い出せばキリがないが、ひとまず登場人物の内面性の欠如と男女のセックス場面の不在について挙げた。いかにも村上春樹らしい作品であるようで、実は村上春樹らしくない。拍子を外された感覚は否めない。『アフターダーク』で感じるのは不足だけではない。不足感と同時に過剰感がある。過剰感の根拠は例えば姉エリの睡眠の描写で、あまりにページのスペースを取りすぎている印象がある。二つの場面や話をスイッチバックさせて章を交互にクロスさせつつ全体の物語を進行させ、最後に二つを一つに融合するのは村上春樹のスタンダードな手法だが、今回のエリの場合は話が空(から)で、寝ている場面の描写だけであり、スイッチバック進行のバランスがよくない。二つの話の展開の均衡がとれないのである。

More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-29 23:30 | 『アフターダーク』 (8)   INDEX  
『Good Luck』(3) - ベンジャミン・フランクリンの訓戒集
b0018539_1602846.jpg『グッドラック』は寓話で表現された幸運論なのだけれど、説かれている中身は決して観念的な幸福論ではない。宗教が語るような「頭の切り替え」とか「気持ちの持ち方」を要請する幸福論や人生論ではなく、現実的で経済的な成功法則論である。実践的でシンプルな生活倫理と経営倫理の啓発が『グッドラック』のメッセージだ。前回、作品の背後にダニエル・デフォーの『ロビンソン漂流記』が見え隠れしている点を指摘した。作者の企図は現代版「ロビンソン・クルーソー物語」にあるのではというのが私の見方だが、『グッドラック』のメッセージは読者に対してさらにダイレクトであり、物語を読ませて裏の寓意を考えさせるというスタイルではなく、いきなり各章の終わりに総括として教訓の言葉が書き並べられている。この教訓カタログが『グッドラック』を文学の本ではなく経営の本にしているとも言える。

More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-28 23:30 | 『グッドラック』 (5)   INDEX  
『Good Luck』(4) - ポプラ社と「資本主義の精神」
b0018539_15531592.jpg『グッドラック』が各書店での週間売上で、『ダ・ヴィンチ・コード』と『アフターダーク』を抜いて最上位にランキングされている。この本についての批評は、私は最初の回で集約して書いたから特に追加することはないが、時間が経つほどに、本の中身のよさの印象よりも、この本をめぐる事件性と言うか、問題性の方に関心が傾いてくる。そしてそれは、私においてはある種の懐疑あるいは当惑として、この本全体の評価をプラスではなくマイナスに位置づけるべく作用してしまう。最も大きな問題はポプラ社というブランドという問題と、そして資本主義という問題だ。この辺りをどう説明すればよいか。説明のために多くの言葉が要る。私の当惑は、ポプラ社の内部の人間なら簡単に理解できるだろうし、業界で長く仕事している者なら、同じ意外な気持ちで今回の「事件」を眺めているに違いない。フィリップ・コトラーが絶賛している。これはまだよい。だがアイアコッカが激賞している。これは駄目だ。そんな本をポプラ社が出すべきじゃない。

More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-27 23:30 | 『グッドラック』 (5)   INDEX  
球界再編考(2) - 国会(良識の府)は何をやっていたのか
b0018539_17465210.jpgギリギリのところで古田敦也が日本のデモクラシーを守り、また古田のおかげで日本のプロ野球は頓死を免れた。古田は日本の民主主義の守護神であると同時に日本プロ野球の守護神でもある。何もかも古田に負っている。三十九歳、体力も気力も充実して、男が最高の仕事を遂行できるとき。古田は日本の民主主義を救った偉業によって歴史に名を残すだろう。古田の人生で今回の交渉が最大の功績になるに違いない。交渉相手役だったロッテ球団代表の瀬戸山隆三も、古田のお陰で脇役ながら歴史に名前を刻むことになる。瀬戸山は大きな人生の桧舞台を提供してくれた古田に対して心の奥底で深く感謝しているだろう。この問題が偶然に発生しなければ、瀬戸山は無名のサラリーマンとして生涯を終えていた。

More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-27 22:10 | 球界再編 ・ 岩隈移籍考(10)   INDEX  
丸の内オアゾの丸善本店 - 雨の日はここでお買い物
b0018539_21383515.jpg鳴り物入りでオープンした丸の内オアゾの丸善本店。メディアで注目を集めているせいか、人がとても多かった。本の品揃えは悪くないが、客が多かったことと、初めてだったので、落ち着いてゆっくり本を見ることができなかった。フロアに高さがあるのはいい。が、ワンフロア当たりの床面積は思ったほどでもない。もっと広い店を想像していた。新しい話題の店であり、週末でもあり、オアゾをデートスポットとしてチェックしに来た若いカップルとか、新名所だから行ってみようかと連れ立って来ていた老夫婦が多くいた。4階のレジカウンターに並んだが、今日のあの待ち行列が次も続くようだと、あと暫くは訪問を遠慮する気分になる。もう少し落ち着くのを待ってから行ってみよう。6階のレストランの一軒に恐る恐る入ったが、予想したとおり値段は高くて内容は貧弱だった。昔懐かしいバブルの小世界が復活している。

b0018539_21384869.jpg私はどうも丸善という本屋が昔から好きじゃない。勝手な偏見に違いないが、経営者や幹部が本を愛しているように見えないのだ。本の並べ方はジュンクと三省堂に倣っているのかなと感じたが、初めて池袋のジュンク堂を訪れたときのような新鮮な感動がない。本屋としてはジュンク堂の方がプロフェッショナルだし、ジュンク堂や東京堂書店の経営の方にヨリ本への愛着や拘りや斬新なアイディアを感じる。本が好きな顧客の心をよく捉えているように思う。経営者や従業員自身が一級の本読みであり、つまり水準の高いマニアックな読者なのだ。その点、三省堂書店などは少し劣るように思われる。店員の中に、本のプロではなく、本が必ずしも好きではない者がいる。丸善になると、普通の企業の採用で社員になった人間が店にいて、職人らしさが感じられない。フロアの中にPCを置いて本を検索させている。

b0018539_21393516.jpg丸善の企業理念は、懼く、本が好きな顧客に愛される店舗を作ることではなく、もっと別のところにあるのだろう。本当は文房具とか趣味の品とか芸術品とか、その延長のもっと高級なプロダクトとかサービスとか、そういう書籍以外の方面に事業を伸ばしたいのだろう。いま競合他社がどんどん大型店を出して売場面積を拡大しているので、競争戦略上、本店を日本橋から丸の内に移転する決断をしたのに違いない。無論、そのデシジョンは正しく、間違ってはいない。丸の内の街の集客数は増加する一途だし、オフィスも新規に増え続けている。八重洲ブックセンターの平日の混雑を思えば、何で今まで周辺に競合店が進出していなかったのか不思議に思えるほどだ。だが、本屋として自分の定番の店にするかどうかと言えば、今のところは様子見だ。やはり神田の方が魅力がある。食事も神田の方に軍配を上げる。

b0018539_21394886.jpg強いて言えば、地下鉄の駅から外へ出ずにそのまま本屋に入れる。交通の利便性は確かにある。夏の暑い日や雨の日は助かる。大概の本が揃っているのであれば、ここで買っちゃおうという気になるかも知れない。池袋の駅からジュンクまでは遠いのだ。あれを歩くのは苦痛だ。あの人混みと狭い歩道は苦手で、人に優しくない池袋の空気は苦痛だ。神田も、神保町の駅から三省堂・東京堂までの間の距離が雨の日は少し辛い。何より神田は地下鉄が三本しか通ってなくて、しかも二本は都営線。乗り換えして行く価値は十分あるものの、交通に不便があるのは言うまでもない。丸善が丸の内に店を構えたことで、確実に足を運ばなくなる店が一軒ある。八重洲ブックセンター。ほんの数年前は、あの店舗の広さと品揃えの豊かさと立地のよさが魅力的だった。株価のボードを横目で見るのも楽しい気分だった。

本の市場は急激に変わっている。特に東京の本屋は。

b0018539_155639.jpg

[PR]
by thessalonike | 2004-09-26 00:14 | 丸の内オアゾの丸善本店   INDEX  
『Good Luck』(5) - ポプラ社のブランドとカスタマ
b0018539_16484988.jpg
私も、最初に原稿に目を通した時から、単純でありながら実に奥が深いこの物語の虜になってしまい、同じように感銘を受けた社内の人間たちと「この本を一人でも多くの読者に届けるために、できることはなんでもしよう!」を合い言葉に、さまざまな試みをしながら本づくりに取り組んできました。(中略) 「児童書のポプラ社」という看板でやってきたポプラ社に「第三編集部」という一般書の部署ができて丸4年。この歴史は、第三編集部発足と同時に入社した私の歴史でもあります。とにかくなんでもアリ、編集者の惚れ込み度の針が思いきり振れていれば大抵の企画が通る、という無茶で幸せな職場ですが、「大人も子どもも楽しめる」「本好きでなくても読める」「読んで元気になれる」というポプラ社だからこそのコンセプトは大切にしたいな、と思ってきました。そんな中で生まれたこの『Good Luck』は、まさにポプラ社第三編集部らしい、胸をはって売りまくりたい一冊です。お力を貸してくださったたくさんの方への感謝も込めて、これからしばらくのあいだ、突っ走らせていただきます。


More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-25 23:30 | 『グッドラック』 (5)   INDEX  
球界再編考(1) - 古田は日本の民主主義の偉大な守護神
b0018539_17384251.jpgプロ野球の話題がトップニュースになるのは異常ではないかという声が一部にあるけれど、本来、この問題は日本の民主主義の根幹に触れる重要事であり、その意味できわめて政治的な問題であるように思われる。国会や閣議の映像が流されればそれが政治報道だというわけでは決してなく、永田町の政治家や霞ヶ関の官僚がマスコミを使って自分たちに都合のいい情報を垂れ流しているのを意味のある報道だと思うのは間違っている。今回の選手会のストライキをめぐる騒動は、この国の民主主義のあり方が国民一人一人の前で問われた大きな社会的事件だった。制度としての民主主義が確立しているこの国で、多数者の意思を現実化することがいかに困難か。多数者の支配というデモクラシーの原理を実現するのに、どれほどの苦労と幸運が必要になるか。

More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-24 23:50 | 球界再編 ・ 岩隈移籍考(10)   INDEX  
『ダ・ヴィンチ・コード』 (1) - 方法としてのインディジョーンズ
b0018539_1843417.jpg聖杯伝説とダ・ヴィンチの絵の謎を題材にしたサスペンス・ミステリー。読書の秋の注目の話題作。キリスト教史、ヨーロッパ思想史の本としても非常に興味深く読める。蘊蓄が満載で、特にアナグラムや暗号解読が好きな読者には堪えられない一冊だろう。ページを埋めているコンテンツは宗教学(図像学・象徴学)の知識なのだが、小説の方法が映画的で、ドラマの場面展開が映画のシーンが連続するように構成されている。すぐにでも映画化されそうな作品であり、その場合は米国(ハリウッド)の映画になるだろう。映画化が意識されている。読みながら作者のことを考えていた。ダン・ブラウンとはどういう作家なのだろうかと。作品のテーマやモチーフからすれば熟年のベテラン作家を連想させる。研究と熟考を重ねた文章を期待する。

More
[PR]
by thessalonike | 2004-09-22 23:30 | 『ダ・ヴィンチ・コード』 (7)   INDEX  
Indexに戻る